「権利処理」の駆け込み部屋 VOL.22 “美術さんからもらった撮影の小道具をSNS発信、展示するのは大丈夫?”
ロケーションジャパンの人気連載、「権利処理」の駆け込み部屋をWEBで一挙公開!「撮影風景を写真で撮ってもいいの?」「お店の宣伝に使ってもいいの?」など、ロケの受け入れを行う自治体担当者やお店などから届く「権利処理」の疑問に対して、田中康之さんと國松崇さんが回答してくださいます!
Q
ロケ撮影で使用した小道具を美術さんからもらいました。SNSで発信したり、展示したりして、ロケ地情報を発信したいのですが、大丈夫でしょうか?
A
契約書を交わして、譲渡要件の確認が大切です。展示などに利用するためにどのような条件が必要か整理してみましょう。
田中:
ロケ撮影完了後、ロケで使ったロケセットや小道具をロケ地に残していくことがあります。その際、残置物に関して明確に書面を交わしておくなどの実務はあまりありませんが、残していった小道具などの権利や取扱いについて、法的にどう整理すればよいでしょうか。
國松:
大まかに二つのパターンに分けられると思います。ひとつは「所有権の譲渡を受けた」という形。もうひとつは「持ち帰れないなどの理由により、処分・廃棄等の依頼を受けた」という形です。 書面などで趣旨を明確にしておけば分かりやすいのですが、そうでなかった場合は、実際に物を置いていく際のやり取りなどから合理的に推測する方法しかありません。
田中:
所有権の譲渡を受けた、ということになると、そのロケセットや小道具は自由に使用していいということになりますか?
國松:
所有権を得たということは、法的にも当該物の処分、管理、保存の全てに関して完全な権利を得たということになります。基本的には何をどうしようとも所有者、つまり譲り受けた人の自由ですが、所有権の譲渡に当たって条件が付いていた場合は注意が必要です。たとえば、①一般観賞用として展示する、②収益をともなうものには使わない、③第三者に転売しない、といったものです。こうした条件も立派な契約ですから、守らないと所有権譲渡契約の違反を理由に、返却を求められることになるかも知れません。
田中:
無償譲渡であっても条件があれば、それも契約だということになるわけですね。一方で、譲渡ではなく、破棄処分を依頼された場合は自由に使えないということになりますね。
國松:
そのとおりです。所有権者である番組サイドから破棄・処分の依頼を受けただけでは所有権を得ることはできませんから、自由には使えません。もっとも、責任をもって廃棄する代わりに、それまでの限定的な期間だけでも展示させて欲しいなどといった交渉は十分あり得るように思います。
田中:
いずれにしても、ロケセットや小道具を利用したいと考える場合は、後でトラブルにならないためにも、どういう約束で合意したのか契約書で確認しておくことが大切ですね。
=====以下、Web版のみ掲載=====
田中:
ロケで使ったロケセットや小道具の残置物問題は、大切なロケ地遺産(レガシー)である一方、悩みの種でもあります。その理由は、親切に譲ってもらったにもかかわらず、①譲った人にそのような譲渡に関する裁量があるのか、②展示などにプロモーションとして利用が出来るのかどうか、③破棄費用は請求できるのかどうかです。
國松:
①については、製作サイドにきちんと確認しておくことが大切です。処分権限がない人からいくら所有権の譲渡やその後の利用にあたって約束を取り付けても、法的には意味がありませんので、最終的には番組の責任者であるプロデューサーの了解を経ているかどうかを確認するようにしてください。②に関しては先ほど言ったとおりで、所有権の譲渡を受けた場合は、その譲渡に何か条件が付加されていない限り、自由に使用することができます。極端な話、誰かに売ってしまってもいいわけです(製作サイドは悲しむと思いますが…)。一方で、破棄処分を依頼された場合は、展示に関する約束を取り付けていない限り、勝手に使用することはできません。最後に、③廃棄費用の問題ですが、理論的には、所有権の譲渡を受けた場合は、当該物の処分は現所有権者、つまり譲り受けたロケ地側で負担するのが筋でしょう。一方、廃棄処分を依頼された場合は、廃棄費用を依頼者、つまり製作サイドに請求することは何らおかしなことではありません。ただ、廃棄までの一定期間、プロモーション使用を認めてもらったりする場合は、その代わりに、費用面も含めて、責任をもって廃棄して欲しいと頼まれることもあり得るように思います。要するに、交渉次第ということですね。
田中:
やはり、ロケセットや小道具の残置物は、その後の利用をしっかりと考えて譲り受けることが大切であり、プロモーション利用についてもしっかりと合意を得ておくことを勧めます。
美術さんから、「そんな面倒なことをいうのであれば持って帰るよ」と言われそうですが、実は制作プロデューサーも不安に感じていることが多いので、譲渡契約書で取り決めをしておくことをお勧めします。ロケセットの譲渡契約の一例です。
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