「権利処理」の駆け込み部屋 VOL.25 “個人の写真で許可なくポスター制作することはできる?”
ロケーションジャパンの人気連載、「権利処理」の駆け込み部屋をWEBで一挙公開!「撮影風景を写真で撮ってもいいの?」「お店の宣伝に使ってもいいの?」など、ロケの受け入れを行う自治体担当者やお店などから届く「権利処理」の疑問に対して、田中康之さんと國松崇さんが回答してくださいます!
Q
「許可なく故人の写真でポスター制作したいのですができるのでしょうか。」
ロケ地で10年以上前に撮影された映画があります。
主演俳優はすでに故人。撮影当時地元のお店を訪れた時にお店の方と一緒に撮った写真で、シティーセールス用にポスターを作りたいと思っています。
A まずは権利の所在を整理することで、肖像権侵害にあたる行為かどうか判断する糸口を見つけ、適切な権利元に確認していきましょう。
田中:まずはこの写真に関連しそうな権利について整理をしてみましょう。考えられるのは、
①スナップ写真の著作権
②写真に写っている俳優さんのパブリシティ権
③一緒に撮ったお店の方々の肖像権
ほかに、作品のポスターなどが大きく映り込んでいれば、
④その作品のタイトル
⑤掲載されている作品のワンシーン写真や宣伝写真
なども、何か権利が発生しそうな要素ですね。
國松:そのような整理でだいたい網羅できていると思います。プライベートに近いスナップ写真などであれば、①写真の著作権は、普通は当時写真を撮影した人か、そのご遺族にあると考えてOKです。②俳優さんのパブリシティ権は、今回の写真の使用目的がプロモーションにある以上は,無視はできません。故人にはパブリシティ権がないという見解もありますが、法律の定めや判例があるわけではないので、故人の親族や旧所属事務所との間でトラブルになるケースは現実にあります。③肖像権はパブリシティ権と違い、存命の方にしかないというのが定説です。したがって、一緒に写っている方も故人なのであれば肖像権の問題はクリアしているといえますね。
田中:なるほど。では④や⑤はどうでしょうか。
國松:そうですね。そのポスター自体はタイトルや写真も含め、当時適法に作られたものなので、今回のプロモーション時にポスターから写真等を切り取って別のコンテンツに組み込んだりせず、単にそのままポスターとして写り込ませるぐらいであれば、タイトルの無断使用とか、ワンシーン写真の新たな利用にあたる、といったことにはならないだろうと思います。
田中:よく分かりました。そうするとまずは「写真の著作権」と「俳優さんのパブリシティ権」をきちんと整理してからプロモーションに取り組むのがよさそうですね。「権利処理」は難しいですが、このように利用したいコンテンツを分解して整理してみれば、自ずから「権利処理」が必要なものが見えてきます。Web版では、許諾を得ないでこうした写真などをシティープロモーションに繋げる方法がないか検討してみます。
=====以下、Web版のみ掲載=====
田中:故人の俳優さんが写っている写真で、映画会社などがその著作権を保有しているような場合、映画会社や、俳優さんが所属していた旧事務所やご遺族の方の許諾を取らずに、当該写真を利用してプロモーションを行う方法はありますか。
國松:そうですね。著作権者の許諾が不要な、いわゆる「写り込み」の概念を使った方法で、飾られている写真をあくまでも背景的に使用するなどの方法は考えられますね。ただ、メインで写るような形では使用できないので、プロモーションの味付け程度に考えるのがよいかなと思います。あとは、厳密にいえば故人の俳優さんのパブリシティ権の問題はあるのですが、そこは過度にPR色を出さないように工夫して、たとえば、「○○という作品のロケで××さんがいらっしゃいました!懐かしい~」といった形で単に事実ベースでまとめるなどすれば、許諾までは必要ないと判断されるように思います。
田中:その方法だと、確かに実現可能ですね。一方で、もしクレームが来た場合の対応はどう考えればよいでしょうか?
國松:まずは写真を入手した方法やロケの経緯なども踏まえ、これまでの使用について、法的にどういう理屈で実施していたのかというのを、丁寧に説明してください。その上で、やはり「写り込み」や「パブリシティ権」のラインはハッキリしたものがありませんので、法的に決着をつけることにあまり固執せず、できれば今後も許される範囲で使用したいことを素直に伝え、条件などで折り合いをつけるようにうまく交渉していければいいのかなと思います。
田中:いざとなれば、きちんと目的を伝えて誠実に交渉しようとすることも大切ですね。コンテンツは「権利の塊」といいますが、「権利処理」の知見(知識とノウハウ)があれば、コンテンツ造成と利活用の効果を最大化することができ、観光資源にも使えるということがいえますね。
國松:おっしゃるとおりです。法律や判例で認められている権利をきちんと守ることも大切なことですが、一方で、法的に「自由に使える」と認められているものを、文字通りみんなが自由に使っていくことも大切なことだと私は思っています。利用できるコンテンツの選択肢が増えれば増えるほど、また使えば使うほど、文化はより深まり、広がり、豊かになっていきますからね。なので、最も効率的・効果的にコンテンツを利用できるように、どこまでが適法でどこからが違法か、許諾が必要になるのかといった「ライン」を知っておくことが重要なのかなと思います。あるコンテンツを観光資源に使いたい、と考えるとき、こうした「ライン」を知らないと、使えないものを使ってトラブルになったり、あるいは、委縮してしまったりして何も使えないという状態に陥ってしまいがちです。
田中:そうですね。ロケーションやPRに関わる人は、ぜひ色んな場所で知識をアップデートしていってほしいです。
【参考】
肖像権とは
肖像権は肖像(人の姿形およびその画像、氏名など)を無断で利用されない権利で、日本においては明文法がないものの、人格権の一部として判例で認められています。具体的には、無断で写真を撮られたり、その写真を公表、または利用されたりしないように主張できる権利が含まれ、著名人の場合はパブリシティ権(氏名・肖像の顧客吸引力を無断利用されない権利)も一定の範囲で保護されると考えられており、その一環として肖像が保護される場合もあります。
肖像権の保護期間
日本では肖像権の明文法がないため、保護期間や相続の可否は明文化されていません。肖像権は本人のみに帰属する一身専属権である(本人の死亡とともに消滅する)という学説もありますが、亡くなった人の肖像を無断で使用することは遺族からのクレームにつながる可能性もあります。なお、アメリカでは州によって保護期間が異なり得るため、どの州に居住していたかなどを確認することが必要になります。
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