行定監督が「セカチュー」や「劇場」で世の中に与えた新しい価値とは
又吉直樹氏原作の映画『劇場』が現在公開中で話題を呼んでいる。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、当初予定していた公開日から3カ月延期しての公開となったが、Amazon primeでの同時配信を行う新しい取り組みに注目が集まった。
メガホンを取ったのは行定勲監督で、下北沢を舞台に展開される若い男女の恋愛模様が描かれている。主人公の永田(山崎賢人)とヒロインの沙希(松岡茉優)、二人の住居となる下北沢のアパート探しなど、ロケ地選びにはかなり力を入れていたそう。また、公開に合わせて下北沢のロケ地マップも配布された。映画を観ればついその土地を訪れたくなるような内容で、行定監督のロケ地への思い入れが感じられる作品でもある。
現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ロケができないという意味でも映像業界にとって厳しい状況が続いている。そんな中でリアルな世界を大切にしてきた行定監督が自粛期間中にwithコロナ時代のニューノーマルとして挑戦したのが、4月24日にYouTubeで公開されたショートムービー『きょうのできごと a day in the home』だ。出演者がすべてリモートで出演するという新しい試みの映像作品。視聴したファンからは、「新たな可能性を感じた」「早く劇場でも観たい」という声があがった。
withコロナ時代の映像作品の新たな形として、これらの作品に注目が集まっているのはもちろんだが、この状況下で新しい形を受け入れ、模索する監督自身にも多くの関心が寄せられている。
ロケーションジャパン(以下、LJ)最新号の100号では、2004年に大ヒットを記録した、行定監督の代表作、映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』のロケ地である香川県庵治町を特集している。
特集の中ではLJ47号でおこなわれた行定監督へのインタビューにも触れており、この頃からつづく監督のロケ地への思いが語られている。作品の主人公、朔太郎(森山未來)が上京してもなお故郷への思いを引きずるさまを表現するためには実際に東京からの距離が必要だったとして、リアルな四国にこだわってロケハンをしたのだとか。結果、思い描いていた風景がすべてそろっていると感じるほど作品の世界観に合った香川県庵治町で撮影が行われ、セカチューは2004年の実写映画ナンバーワンヒットを記録。さらには、映画やドラマのロケ地を巡る聖地巡礼の先駆けともなり、多い日は100組を超すカップルが日本全国から訪れる恋愛の聖地となった。映画公開から15年以上が経過している今も、聖地巡礼で訪れる人は少なくない。行定監督は映画の力で、何もない街を純愛の聖地に変えたのだ。
かつてセカチューでは何もない場所を聖地に変え、この度のコロナ禍では、映画の新しい形を生み出した行定監督。新型コロナウイルスが世の中に与える制約が弱まり、今まで通りの映像制作ができるようになった時、また新しい挑戦を監督は見せてくれるかもしれない。