ホーム > ニュース

ニュース

■地域
2022.04.14

県をまたいだ4市町がタッグ。映画『今はちょっと、ついてないだけ』にみる“地域発映画”の可能性

映画は、ロケ地になった地域を盛り上げるポテンシャルを秘めている。

世界最高峰の映画賞の一つ『第94回アカデミー賞』で『国際長編映画賞』を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』のロケ地・広島県に見られる盛り上がりがその好事例だ。実際に広島県では現在、制作したロケ地マップのウェブサイトのアクセス数が急増、大手旅行会社からのツアー化の問い合わせも増えているといい、映画が観光誘客に繋がる期待が高まる。

 

このように、映画を地域の認知度アップの一つの手段と位置付け、映画作り・撮影協力に動き出している地域が昨今増えていると感じたことがある人も多いのではないだろうか。

今回、特筆するのは4月12日公開の映画『今はちょっと、ついてないだけ』に取り組んだ4市町。その理由は、映画製作のスタートにある。

 

この映画は千葉県茂原市、長野県千曲市、愛知県幸田町、長崎県島原市の4つの市町と映画の製作元が連携し作られた。地域連携で生まれる地域発映画が増えているなか、県をまたいだ連携で、商業映画を作る点において珍しい事例。オムニバス映画ではないひとつのストーリーを成立させながら興行成績を目指すチャレンジに、業界からも注目が集まっている。

 

作品は朝ドラでも注目を集めた玉山鉄二の13年ぶりの主演映画。伊吹有喜の同名小説が原作で、かつての人気カメラマン・立花浩樹が表舞台から姿を消す中で、新しい出会いをきっかけに再生を目指すという、コロナ下での閉塞感に風穴を開けるようなヒューマンストーリーだ。

一貫して求められたのは、登場人物の“ちょっと、ついていない今”から“新しいステップへ進む姿”を投影する為にふさわしい背景(ロケ地)だった。では、今回選ばれた4つの市町はどうして決まったのか…。

 

その背景のひとつに、全国でロケを受け入れる多くの自治体が抱える課題、「観光客誘致」「シビックプライドの造成」「経済活動の活性化」がある。その解決に繋がる先進事例を作ろうと「(一社)ロケツーリズム協議会」が立ち上がり、東京で年5回のセミナーが開催されている。そこで出会ったのが先の4市町の首長というわけだ。

4地域は映画への出資から、ロケ対応まで協力を惜しまなかった。全ての地域がコロナ対策や車両の手配、食事の提供など手厚くサポートし、公開の迫った現在は市民への周知など映画のPRにも努める。千葉県茂原市や長崎県島原市では「企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)」を活用したという。

 

もちろん「ただ協力的だから」という理由だけで、製作が進むわけではない。映画『パーフェクトワールド』で知られる柴山健次監督とプロデューサーらが、台本をもとに物語に沿うロケーションを吟味。この4つの地域だからできた作品だ。劇中には柴山監督が切り取った画になるロケーションがたくさん登場する。黄金色に輝く稲穂が実った棚田(長野県千曲市)や黄色い電車と海が映える駅(長崎県島原市)など、次の旅先に選びたくなる場所ばかり。

また、経済の活性化を目指し、映画には地元の特産品も各所に映し出されている。メインロケ地となったシェアハウスが建てられた千葉県茂原市ではロケセットを観光資源として活用しようと準備中。立花らがつまんでいた葱ッペ餃子(千葉県茂原市の特産)や夜食に準備していたジャムトーストには筆柿ジャム(愛知県幸田町の特産)なども作品とのコラボ商品として販売が検討されている。

こうした動きは、様々なロケ誘致の中で、地元物産の実売数が何倍にもなったり、ふるさと納税の金額が増えたり、移住者が増えたりといった、実績に基づいた経験がものをいう。制作陣がしのばせた各地の名所やご当地グルメの今後の展開も楽しみのひとつだ。

 

 

 

映画『今はちょっと、ついてないだけ』

出演:玉山鉄二、音尾琢真、深川麻衣、団長安田、高橋和也

監督/脚本:柴山健次

原作:伊吹有喜「今はちょっとついてないだけ」(光文社文庫 刊)

2022年4月 公開

©2022映画「今はちょっと、ついてないだけ」製作委員会

この記事をシェアする

©Location Japan. All rights reserve