『ドライブ・マイ・カー』のロケ地・広島から見る 聖地巡礼の次なるステージ
3月28日ロサンゼルスで行われたアカデミー賞で、映画『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を受賞した。映画『おくりびと』以来、13年ぶりとなる快挙。日本国内では公開から7カ月が過ぎた今も、各地でロングランが続いている。
歓喜に沸くロケ地・広島
その中でも歓喜に沸いているのが、ロケ地になった広島だ。濱口竜介監督も「広島の風景の力に助けられてやっている。奇跡みたいな風景と土地の魅力を記録して映画の力にできたんじゃないかと思います」と語るほど、作中には多くの広島の風景が登場する。公開後は、ロケ地を熱心に巡る人の姿が目立ち、マップや聖地巡礼ツアーなど作品を活用した地域活性化への取り組みを強化。今回の受賞でさらに注目度を増し、多くの観光客が訪れることが期待される。広島としては今後、この盛り上がりをどこまで持続できるかが次なる課題となるだろう。
ロケ地の盛り上がりを持続させる施策
そんな中、撮影された作品を「ロケ地遺産」として残し、持続的に観光誘客に繋げる取り組みが全国で広がっている。それが、「ロケ地看板」の設置だ。(株)地域活性プランニングが監修し、現在全国で49箇所に展開されているこの看板には、俳優が写った作品の場面写真やシーン紹介などが記載されている。大河ドラマや連続テレビ小説に見られるように、映像作品は一時爆発的な盛り上がりを見せても、その後継続的な地域振興に繋がらないことが課題の一つだ。しかしロケ地看板の設置により、作品の旬やファンか否かに関係なく、ロケ地をフックに、地域に興味を持つきっかけづくりができる。結果的に「ロケ地になった」という実績を持続的に活用できるようになるのがポイントだ。
ロケ地看板の設置日本一・綾瀬の取り組み
その取り組みの先進事例が、全国で一番のロケ地看板設置数を誇る神奈川県綾瀬市。市長自ら「何もないまち」と称していたまちが、ロケ地看板の設置やロケ地マップの発行で、ファンをもてなす仕掛けづくりを続け、「ロケのまち」としての認知度を着々と上げている。
もともと綾瀬市は観光地ではないベットタウン。シビックプライドの醸成などを目的に9年前からロケ誘致を開始した。市を窓口とした丁寧な対応とアクセスのよさで、制作者に人気のロケ地に。ドラマ『コウノドリ』や『恋はつづくよどこまでも』では綾野剛、星野源や佐藤健ファンが撮影された市役所を訪れるようになる。ロケ地としての盛り上がりを受け、2017年よりロケ地看板の設置を開始。ファンが喜ぶのはもちろん、市民からも「なんてことない風景が映像に出てうれしい」「綾瀬市民であることに誇りがもてた」という声があがり、ふるさとの魅力が映画やドラマという形で保存されることにもつながっている。2016年から現職の古塩市長も「ありふれた風景が映像作品に取り上げられるにつれて、市民が自分達の地域や暮らしの価値を再発見するようになった」とコメント。ロケ地看板が市内外から好評を得た結果、現在は全国で一番の数を誇る20基を設置するまでになった。
ふるさとの魅力、映画やドラマで発信&保存を
ロケ地巡りの良さのひとつは、色あせないこと。映像作品はいつでも見返すことができ、さらに映像と同じ場所に自分の身を置くことは、作品がどんなに古くなっても楽しむことが出来る。今後もロケ地である地域が、映像作品を活用してふるさとの魅力を発信し、守っていく取り組みが増えることに期待したい。