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2024.10.31

名作映画『砂の器』公開50周年。 物語の舞台は、『VIVANT』のロケ地にもなった島根県奥出雲町

「亀嵩」(かめだけ)という地名を知る人はたいてい『砂の器』を知っている。『砂の器』とは松本清張氏の長編推理小説。本を読んだことがなくても映画なら観たという人は多いはず。松竹映画『砂の器』は1974年に公開され、今年でちょうど50年。その節目に島根県仁多郡奥出雲町亀嵩で「砂の器記念祭」が開かれた。

 

(砂の器記念祭の様子①)

 

 

(砂の器記念祭の様子②)

 

 

物語のなかで亀嵩は東北弁に似た音韻を持つ出雲地方の言葉「カメダ」とともに、事件の重要な鍵を握る場所として登場する。映画では丹波哲郎さん扮する今西刑事が木次(きすき)線を使って亀嵩に入り、棚田が広がる農道を行き来する姿が描かれている。つまり、小説の中でも映画の中でも、亀嵩は砂の器ファンにははずせない場所なのだ。

 

記念祭はこの地区の亀嵩小学校の体育館で行われた。50年という節目、当時の映画公開日と同日の土曜日、亀嵩という場所。イベントの舞台としては申し分ない設定である。奥出雲町の糸原町長によると亀嵩地区は人口が1000人を切り、亀嵩小学校は近く統廃合されるという。その会場に約600席が設けられ、当日は雨にも関わらず、町内外からの来場者でいっぱいになった。その賑わいにこのイベントは文字通り、地元の人たちにとって″お祭り“なのだと実感した。

 

(砂の器記念祭プログラム)

 

 

イベントはゲストスピーチから始まった。登壇者は福澤克雄氏。福澤氏はTBSテレビドラマ版の『砂の器』を監督した人だが、その作品も放送からちょうど20年になるという。福澤監督に「風景が美しく、食べ物がおいしい。奥出雲には本物がある」と言わしめたこの町で、同氏が撮った作品は数あるが、なかでも日曜劇場の『VIVANT』は記憶に新しい。ちなみに『VIVANT』でも奥出雲は主人公の父が育った場所としてロケに使われ、放映後は観光客で賑わっている。

 

 

コンサートでは県内在住のアーティストたちにより、映画版の「宿命」、ドラマ版の「宿命」、「VIVANT」のメインテーマ等が演奏された。フルオーケストラの作品がシンフォニエッタに編曲され、ピアノと弦楽器の音色に会場はぐいぐいと物語の世界に引き込まれていく。トークショーには登壇者のひとりに、映画版に子役として出演した春田和秀氏が招かれた。巡礼とも言える父と子の放浪シーンに登場する少年期の本浦秀夫役を演じた人である。当時の春田氏は小学生。セリフがなく表情と動きだけで秀夫役を演じきった役者として撮影時のエピソードなどが語られた。

 

 

そして最後は映画の上映。35ミリフィルムで上映される『砂の器』は、音声も映像も昭和の映画館を思い出させる。約2時間半の上映にも関わらず、多くの来場者が席を立たずに見届けたのも印象的だった。糸原町長に聞くところ、この上映は「しまね映画祭」の一環でもあるとのこと。島根県では映画館のない町でも大きなスクリーンで映画を楽しもうと、市町村の公共ホールで様々な作品が上映されるという。亀嵩小学校の『砂の器』も、しまね映画祭のラインナップの一作品として観客を楽しませた。

 

(35ミリフィルムの映写機)

 

 

この日、せっかく奥出雲に来たのだからと亀嵩周辺の物語ゆかりの地をめぐってみた。木次線の亀嵩駅は撮影には使われなかったが、今も物語の舞台を見に多くの人が訪れるらしい。駅舎内のお蕎麦屋さんは週末もあってか、ランチタイムには行列ができていた。出雲八代駅と八川駅は撮影時には亀嵩駅に見立てられた。特に出雲八代駅のホームは今西刑事が佇むシーンや本浦父子が別れる時の切なくも感動的なシーンとして登場する。線路の景色が今も当時の面影を残すのは、ローカル線ならでは魅力かもしれない。また、湯野神社は緒形拳さん扮する三木巡査が石段を駆け上がり、亀嵩にたどり着いた本浦父子を見つける場所として出てくる。鳥居の横には「砂の器舞台の地」と刻まれた記念碑が建っており、ファンの撮影スポットにもなっている。

 

(亀嵩駅)

 

 

(出雲八代駅ホーム)

 

 

(砂の器 記念碑)

 

 

参考までに、トークショーの登壇者のひとりで地元出身の村田英治氏が、JR木次線の歴史と砂の器のエピソードを本にして出版している。作品とこの町の背景などが詳細に語られており、砂の器の旅に最適な一冊として紹介したい。

 

 

(村田氏の著書「『砂の器』と木次線」(ハーベスト出版))

 

このように「砂の器記念祭」は50周年という名にふさわしい、地域の色が濃く出たイベントだった。そこには時を経て何度もドラマ化されるほど普遍的なテーマを持つ作品の力もあるが、物語と映像の持つ力を信じて撮影に協力し、ていねいにロケに寄り添ってきた地元の人たちの力もある。それは前出の福澤監督を始め多くの映像制作者たちが、東京から決してアクセスが良いとは言えない島根県、さらには奥出雲に繰り返しロケに訪れていることからもよくわかる。

 

映画やドラマによる地域活性化は作品、撮影隊、ロケを受け入れる人たちの共同創造だが、なかでも地域の人たちの熱意によるところは大きい。(そんな功績が評価され、島根県は『VIVANT』とのタッグで2024年に第14回ロケーションジャパン大賞準グランプリを受賞している)

 

奥出雲町はこれからが本格的な紅葉の季節。木次線に乗り(もちろん車でもOK)、神話やたたら製鉄発祥の地が持つ歴史と豊かな自然を全身に感じ、おいしい仁多米やお蕎麦を食し、ロケ地にもなった棚田の風景や鉄師の旧家を見て回るなど奥出雲の秋を満喫してほしい。

 

(取材・文/ロケーションジャパンアドバイザー 荒木さと子)

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