忘れられない風景をアニメの中に残してくれた、高畑勲監督
『母をたずねて三千里』『アルプスの少女ハイジ』『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』など、日本を代表する数々のアニメーション作品を手がけてきた、映画監督であり演出家の高畑勲監督が4月5日、82歳で亡くなった。
アニメ黎明期からアニメ業界を牽引してきた名クリエイターの突然の訃報に、日本のみならず世界のファンが衝撃を受けると共に、高畑監督作品に改めて想いを寄せたのではないだろうか。
高畑監督は東映動画に入社後、テレビアニメ『狼少年ケン』で業界デビュー。その後、『ルパン三世』『パンダコパンダ』『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』などの、今も名作として語り継がれる作品を経た後、宮崎駿監督と共に『風の谷のナウシカ』を制作。それをきっかけに、高畑監督もスタジオジブリの設立に携わった。
高畑監督がスタジオジブリで手掛けた作品は、『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』『かぐや姫の物語』など数多い。今なお、テレビで放送されることも多いこれらの作品を、一度は観たことがある方も多いはずだ。
昨日夜9時からの「金曜ロードShow!」(日本テレビ系)では、高畑監督の追悼として、『火垂るの墓』の放送が急きょ決定した。
『おもひでぽろぽろ』の舞台、高瀬駅
(写真提供:山形フィルム・コミッション)
宮崎監督と共にジブリの「柱」とも言える高畑監督だが、両者の作品は全く異なる。
最も大きな違いは、宮崎監督は元アニメーターで「描く」監督である一方で、高畑監督は「描かない」監督であったことだと言われている。描かないからと言って作画に妥協することは一切なく、高畑作品でのロケハンは徹底して行われた。
高畑監督の作品の舞台の描写にかける情熱は、作品を見た誰もが実感するところだ。
例えば、『火垂るの墓』は兵庫県神戸市・西宮市が舞台だが、非常に詳細に当時の風景が描かれている。敗戦直後の景色は、現在はほとんど残っていないが、当時と今の風景を比べるほど、物語の深さが心に染み渡ってくる。
一方、現代日本を舞台にした『おもひでぽろぽろ』では東京のOL・岡島タエ子が山形県山形市を訪れ、山形の自然や田舎の風景を綿密に描き出した。
スクリーンに広がる金色の紅花畑が目に焼きついている人も多いだろう。
高畑監督の作品は徹底した「リアル」にこだわられて制作されているため、作品を観たあと、その場を訪れることでも二重に深い意味を味わうことができる。当時の風景が失われている『火垂るの墓』では、消えている・変わっているからこそ、時間の流れ、当時の過酷さ、作品が訴える意味を心に深く問いかけられる。
また、当時の名残を残す『おもひでぽろぽろ』では、実際にその舞台に行き、主人公たちと同じ体験をすることで、彼らと同じ気持ちを共有することができる。
私たちに、日本の風景の美しさ、守るべき文化を教えてくれた高畑監督作品は、今後もずっと愛され続けるだろう。