ホーム > インタビュー&コラム

インタビュー&コラム

■クリエイターインタビュー

映画『流浪の月』

広瀬すず×松坂桃李W主演、本屋大賞受賞傑作小説を『フラガール』『怒り』などの李相日監督が映画化し、本日(5/13)全国公開。李相日監督に撮影の思い出、ロケーションへの想いを語ってもらいました。

 

 

──原作を読まれてどのように感じられましたか?

今を生きる自分たちが直面している世界観だと感じました。ネットに象徴されるように、思い込みや常識が当事者を苦しめてしまうという現実が描かれています。一方で、寓話的にも見えるほどの二人の純粋な魂と魂のつながりがある。これをどう映画で表現できるかを考えました。

──脚本を書く上で抽出するポイントはどのように考えられたのですか?

基本は原作に忠実に。内面描写や心の声に重要な描写が多い作品なので、芝居やセリフ、あるいは画の表現にどう置き換えるか、ということを考えました。 先ほどお話しした、人の思い込みや常識をどう表現するかは、観客の皆さんも日常で感じているようなことなので難しかったです。

 

──広瀬すずさんとは『怒り』以来6年ぶりとのことですが、いかがでしたか?

場数を踏んで本当に逞しく、唯一無二な存在になりつつあると思います。彼女はいい意味で影があります。傍からは順調な人生を送っているように見えがちですが、一方で心の中にきちんと”棘”を持っている。『怒り』とは求めるものが違うので簡単に比較できませんが、本作では彼女自身から湧き出るものに託す部分が増えました。彼女にはアスリート気質のようなものがあります。感情的で沸点が上がる瞬間というのはスピード感が増す。劇中にも激昂するシーンがあるのですが、見ていて本当に素晴らしいなと思いました。

──文役の松坂桃李さんは初めてとのことですが、いかがでしたか?

プロですよね。完璧にこなすだけではなく、悩むところが脱帽するほど深いです。どうセリフを言おうだとか、どう動いたらいいかという即物的なものではなく、文という人間の心のありようや、抱えている苦悩の根源に同期できるところまで入り込んでいるので、それは作品の中にも投影されていると思います。

 

──新たな一面が見えたのが横浜流星さんでしたが、どうでしたか?

そうですね。本作の中で僕からいちばん無理難題を言われたのが横浜さんじゃないかと思います。何を課されて忠実に応えようと取り組む彼のストイックさに触れて「この気質があるからこその人気なのか」と。人気があるということだけでなく、作り手にも必要とされるのがよくわかります。無理難題を言われて、おそらく分からないこともあったと思いますが、自分の解釈で処理せず最後まで「どういうことなんだ?」と考え続けていた気がします。

──無理難題というと?

無理難題というほどでもないですよ。亮という役は自己愛が強くて女性に甘えるのです。横浜さんは空手で世界一になった経験もあるくらいですから、ストイックに育ってきたはずで、亮のように甘える気持ちがわからないと思います。なので、克服するためにまずは甘えることを身につけろと…。(笑い)

 

 

──ロケ地について、文が働くカフェはこだわられたそうですね

原作には町の設定がありません。漠然と町を探すよりも、本作においてはあのカフェ、つまり“点”を決めることがロケハンの第一目標でした。ただもちろん“点”と言いながらも、どんな立地にあるかが大事で。劇中に登場するカフェは、人通りに面していながらもポツンとした佇まいで主張をしない。それでいて映像的には風景の中に埋もれてしまわないようにと、言わば真逆の要素を満たさねばなりませんでした。

──更紗と文が引き離される湖も印象的でしたが、どのような意図があって「湖」を選んだのでしょうか?

実は、原作は湖ではなく動物園の設定なのです。ただ、更紗と文を繋ぐイメージとして“水”が浮かびました。風水的にも二人はどこか水に近い。なので、二人のいる場所には水や雨の存在が介在する構図を意識しました。ちなみに、亮は火、谷さんは土。亮のマンションは火にちなんでソファを赤にしたり、壁に赤い絵がかかっていたり、鍋も赤だったりします。衣装にもオレンジを入れました。海や川に比べて、湖には神秘性を感じます。更紗と文の記憶を繋ぐ場所として適していると思えました。ただこのシーン、撮影をしたのが9月でちょうど水が冷たくなる時期だったので俳優は苦労しましたね。

 

 

──ロケ地に求めるものはありますか?

ありきたりですが、その街の”特色”でしょうか。どうしても、街が新しくなることによって似通ってくる傾向を感じます。例えば、同じ系列の巨大モールができたり、高層マンションが建ったり。利便性がそうさせるのでしょうが、街によっては空が広い、あるいは変わらぬ風情が残っている。その街ならではの何か、を発見するのがロケハンの醍醐味でもあります。

──映像制作の業界を目指す若者へアドバイスをいただけますか?

僕の場合大学生の頃にバイトで入って、そのまま就職活動を途中で辞めました。もうここでいいやと。もちろんそうでない人もいますが、まず一度飛び込んでみてもいいかなと思います。入って観察してみて、水が合うかどうか。業界にしても映像の学校にしてもですが、入らないと分からないことがあるので。初めてエンドロールに名前が出てきた時の感動は僕もいまだに覚えています。少しの関わりでしたが、自分の名前がスクリーンに。そこまで関わってみて決めるのもいいかもしれません。

映画『流浪の月』

雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後。誘拐事件の“被害女児”とその“加害者”という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。しかし、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて…
_______________________________

【作品情報】
2022年5月13日(金)公開
原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社刊)
出演:
広瀬すず 松坂桃李
横浜流星 多部未華子 / 趣里 三浦貴大 白鳥玉季 増田光桜 内田也哉子 / 柄本明
監督・脚本:李相日
(C) 2022「流浪の月」製作委員会

【PROFILE】

監督:李相日さん

主な作品
『フラガール』
『悪人』
『許されざる者』
『怒り』

この記事をシェアする

©Location Japan. All rights reserve