映画『青春18×2 君へと続く道』ロケーションはどうやって選んだ? 前田浩子プロデューサーに聞いた
台湾と日本を舞台とし、シュー・グァンハンと清原果耶がW主演を務める映画『青春18×2 君へと続く道』(監督・藤井道人)が昨日5月3日から公開されている。
本作では台湾の青年・ジミー(シュー・グァンハン)と、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)が過ごしたひと夏の日々と、その18年後の物語を台湾と日本の美しい風景と共に映し出す。その見どころを、映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)以降、清原果耶・藤井監督と2度目のタッグを組む前田浩子(まえだ こうこ)プロデューサーに聞いた。
台湾と日本の違い、ロケ弁の豊富さに驚き
――前田さんにとって、本作は清原さん・藤井監督と手掛ける2度目の作品ですね。前田さんから見る清原さんはどんな俳優ですか。
前田P: 清原さんは深く考えて役を作り込んでいくタイプで、正統派の演技派女優という感じです。脚本をすごくリスペクトするし、わからなかったら最初の段階で「ここの言い回しがわからない」と言い、徹底的に監督と話し合いを重ねます。
あとは周りのスタッフの動きもしっかりと見ていますね。誰かが差し入れを持ってきたときは、その人を見つけてお礼に行くなど、気遣いの人ですね。
――撮影現場で、良い意味で緊張感を与えてくれそうですね。
前田P:良い意味で緊張するし、藤井監督も緊張すると言っています。藤井監督は22歳の若者の経験はあるけど22歳の女の子の経験はない。清原さんがアミと同年齢の22歳で、リアルな年の女の子を演じるという時に、清原さんの意見を尊重していました。
常に「アミだったら…」いう軸で考えていましたし、シュー・グァンハンとも翻訳サイトを使ったり、身振り手振りで必死に話していました。
――言語が通じない中で、積極的にコミュニケーションをとられていたのですね。
前田P:清原さんは共演者とのアンサンブルを大事にしている気がします。だからグァンハンの佇まいや役作りに、自分と同じものや刺激を感じたと思います。そんな彼とのコラボレーションがすごく楽しかったのか、彼女は台湾でアミを演じてどんどん綺麗になっていきました。台湾という環境や、信頼できる藤井監督の存在も大きかったと思います。
――台湾での撮影環境についてもお聞きしたいです。
前田P:環境が「作られていった」という感じですね。藤井監督は自主映画をやっている頃から台湾に行って、いろいろな人に会ってネットワークを広げていました。その中でPVを作る機会があったときに彼を支えてくれた若いスタッフが、今回の美術デザイナーです。
苦労したのは18年前の台湾を作ること。細かく台湾チームと映像を見ながら18年前になかったものがあれば消していき、ロケ地も古い駅を探すなど工夫していました。
――台湾と日本の合作として進める中で、違いは感じましたか。
前田P:同じアジア圏ということもあって、どこか通じている部分がある中でスタートを切れたかと思います。その一方で、もちろん日本と台湾の違いも感じました。例えば、日本だと「飯押し」という業界用語があって。撮影時間が押したらご飯を後回しにして撮り続けることですが、台湾だとご飯が優先。朝昼夜で、ご飯が7,8種類も用意されているんですよ。しかも温かい。たぶんグァンハンは日本でロケをしているとき、何でいつもこんな冷たいのって思っていたと思います。福島・只見町のアミの実家を訪ねるシーンは、ロケ地が静かで落ち着いていたのでケータリングを呼びましたが、それは嬉しそうに食べていました。
只見線復活の話を聞いてアミの故郷に
――本作では日本の美しいロケーションも見どころですが、ロケ地はどのように選ばれましたか。
前田P:個人的に参考に見ていたテレビ東京のドラマ『鉄オタ道子、2万キロ』(2022年1月クール)のクレジットで雑誌「旅と鉄道」を見つけ、まずは真柄智充編集長にロケ地のご相談をしました。原作は、青春18切符で旅をする台湾の青年のブログです。それを簡単に訳したものを真柄編集長にお送りし、ご意見とアドバイスをもらって、藤井監督たちと原作のルートを含めて日本でロケハンを開始しました。
その中で只見線のことを知りました。2011年に豪雨で被災していて、廃線の話も出たそうです。そんな中で地元住民から「只見線の美しい景色をなくしたくない」という声が上がり、お金を集めて11年かけて復興した話を聞きました。それが22年10月に開通することを藤井監督に話すと「只見をアミの故郷にしよう」と前のめりになり、そこからルートを考えていきました。
――実際の只見はどんな町でしたか。
前田P:只見駅にロケハンに行くと、ポツンとした感じがすごくて。無人駅で、改札を出て歩いても何にもないんですよね。駅を出たところにタクシー会社があって、いろいろ案内してもらいましたが「冬はどうですか」「いや、もう雪でちょっと入れないですよ。ここからは」と雪の情報も伺って。そんな地元の方との会話は、アミのセリフにも反映されました。
――劇中でジミーがたどるルートは、原作とは違うんでしょうか。
前田P:原作は東北の方に行きますが、いろいろ調べてロケハンする中で、台湾の旅のツウがよく行く「昇龍ロード」という中部・北陸地方を南から北に縦断するルートを見つけました。それを藤井監督にプレゼンしたところ「その前にジミーに立ち寄らせたい場所がある」と言われたのが漫画『スラムダンク』の聖地・鎌倉です。ジミーはスラムダンクを見て日本語を覚えて、アミとの会話で盛り上がるきっかけになっていますからね。
――本作では『スラムダンク』以外にも、当時の日本の流行が色濃く反映されていますね。中でも映画『Love Letter』はかなり重要な役割を果たしています。
前田P:『Love Letter』は原作のブログにも出てきます。岩井俊二監督作品のプロデュースをしていた経緯もありますが、私の青春時代の思い出にも残る作品ですし、当時台湾ですごく人気が高かったと聞いています。台本でもジミーが「岩井俊二はみんな好きですから」と言っていますね。ジミーとアミが『Love Letter』を見るレトロな映画館も、ものすごく探しました。
――俳優たちの演技を見て、ロケ場所からパワーをもらっているなと感じることはありますか。
前田P:もちろんあります。私は只見に着く直前のジミーの横顔がとても美しいと思っています。電車を降りた途端にハアっと白いため息をつく瞬間がありますが、その冷たいパリッとした空気によってジミーになれた気がしたとグァンハンも言っていました。なのでアミの実家のシーンは、松重豊さん演じる中里に会うところから全て、只見で撮っています。
先ほどお話しした、清原さんが台湾に行ってだんだん綺麗になっていったというのも、同じだと思います。台湾の空気やちょっと解き放たれた南の雰囲気が、二人の10歳以上離れた実年齢の違いがわからなくなるほどの距離間に影響したのではないでしょうか。