ロングラン上映中! 『この世界の片隅に』のファンをもてなす広島と呉のフィルムコミッション
片渕須直監督の高い作家性が評価され、第8回ロケーションジャパン大賞の監督賞を受賞した、アニメ映画『この世界の片隅に』。
当初、100館に満たない劇場で封切られたが、今でも全国の劇場でロングラン上映を続けている。本作は、1944年、太平洋戦争時の広島・呉を舞台に、前向きにたくましく生きた主人公・すずとその家族の暮らしが描かれている。すずの目線で描かれた世界は「戦争」という「非日常」の中で「日常」を生きた人々の姿を描きだし、多くの人の心に強い印象を残した。
1994年、広島で暮らす18歳のすずさんに、縁談の話がもちあがる。すずさんは、故郷・広島を離れ、呉へ嫁いだ。そのころの呉は、日本海軍の一大拠点として軍港の街として栄えていた。海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんと、夫の両親、義姉とその娘との生活が始まる。戦争が始まり、生活に暗い影が落ち始める中、すずさんは工夫を凝らして日々を過ごしていく。
本作では、今は消えてしまった広島や呉の風景が丁寧に描かれている。2016年11月12日の公開から1年以上経った今も、本作の世界観を感じるために劇場に足を運ぶ人は多い。
広島フィルムコミッションと呉地域フィルムコミッションは共同でロケ地マップを作成し,観光案内所などで配布。加えて、観光スポットではなかった「三つ蔵」や「巡洋艦青葉記念碑」へのアクセスを説明するチラシを有志がデザインし、市内各地で配っている。その他、呉市立美術館での原作漫画の原画展の実施、舞台である呉を訪れる人への情報提供のために設置された「『このセカ』公式案内所」、作品ゆかりの地を巡るキーワードラリー「すずさんの嫁入り」などさまざまな取り組みが行われた。
しかし、あまりに作品が大きくなり、かつファンである観光客の激増などから公式Webサイトでは一つのお願いを掲げている。すずさんが暮らす北條家があるとされるエリアは、道の狭い一般住宅街となっており、ロケ地MAPにも記載されていない。そうした場所は、観光地ではなく、現在住民に迷惑がかかるため、訪問を控えてほしいということだ。
広島フィルムコミッションと呉地域フィルムコミッションは、作品と地元の発展を願いつつも、その土地で生活する人々や土地の魅力が損なわれないよう取り組んでいる。『この世界の片隅に』の舞台を訪れる際は、ぜひそのことを心に留めつつ、今はないあの頃の風景を思い描きながら現地を堪能して欲しい。