「権利処理」の駆け込み部屋 VOL.21 “ロケに来ていた俳優がロケ地をつけて発信してくれたSNSを利用するのは可能?”
ロケーションジャパンの人気連載、「権利処理」の駆け込み部屋をWEBで一挙公開!「撮影風景を写真で撮ってもいいの?」「お店の宣伝に使ってもいいの?」など、ロケの受け入れを行う自治体担当者やお店などから届く「権利処理」の疑問に対して、田中康之さんと國松崇さんが回答してくださいます!
Q
地元で撮影があり、出演俳優さんがロケ地をつけてSNSで発信してくれました。そのSNSの画像を切り取ってSNSで発信していいでしょうか。また、SNSで見たことを「○○さんが撮影で来ました」と自分で発信していいでしょうか?
A
田中:出演者の方がSNS投稿した画像を切り取り、ロケ地側がロケ実績として自分のSNSで再利用したいとのことですね。まず、SNSに投稿された画像は誰のものかというとどうなりますか。
國松:俳優が自分で撮影した写真の著作権は、その俳優に帰属するのが原則です。所属事務所が管理しているようなオフィシャルアカウントなどの場合は、所属事務所が著作権を持っている場合もあるでしょう。SNS上に投稿した画像の著作権を、当該SNS側が召し上げてしまうような規約の噂を耳にすることがありますが、 Twitter、Instagram、FacebookなどのSNS利用規約にそういった定めは存在しません。
田中:なるほど。たとえばTwitter に出演者が投稿した画像などを利用したい場合、SNS側に許諾申請をする必要はないということですね。
國松:そうです。先ほどのSNSサービスの利用規約に大体書かれているのは、ユーザーが投稿したコンテンツを、SNS側の方が、色んなところで無償で利用してよいということまでで、著作権は全面的に著作権者に残されています。
田中:そうすると、その俳優の所属事務所に問い合わせをして、利用許諾をもらうというのが現実的ですね。ところで、Twitterではリツイート機能も盛んに使用されています。ロケ先がリツイートを積極的に利用することについて、何か気を付けることはありますか。
國松:裁判所は、リツイート行為の法的性質について、リツイートしたユーザーによる複製や公衆送信自体は行われていない、として著作権侵害を否定しました(知財高裁平成30年4月25日判決)。したがって、この判決によると、リツイートしただけでは著作権侵害にはなりません。ただし、たとえば誰かの写真付き投稿をリツイートした場合に、技術的な問題で、もとの写真の一部が勝手に切り取られて表示されたり、氏名表示などが消えてしまったりすることがあります。先の高裁判決は、その場合には著作者人格権の侵害になると判示し、この判断は最高裁でも維持されました(令和2年7月21日 第三小法廷判決)ので、写真などのコンテンツをリツイートする場合は注意が必要ですね。
田中:仮に法的な問題はなかったとしても、ロケ地側のマナーの点からいえば、予め報告すると良い印象を持ってくれるように思います。あとは「○○さんが撮影で来ました」と自分の言葉でSNSに発信することは、ロケ作品の情報発信期日を守れば、事実なので問題ありません。SNSは情報拡散手段として有効ですが、ルールを守って利用するようにしたいものです。
=====以下、Web版のみ掲載:シーン写真について詳しく説明します。=====
田中:まず、情報の発信という分野において、よくマスコミと個人では異なる法的な立場は異なるのかとの質問を受けます。しかしながら、報道記者は何か特別な資格を持っているわけでなく、著作権法の中で、マスコミと個人で書き分けられているといったことはありませんよね。
國松:そうですね。発信する情報の中で他人の著作物を利用するような場合は、たとえば「私的使用のための利用」(著作権法30条1項)、「引用」(同32条1項)、「時事の事件の報道のための利用」(同41条)といった著作権法の制限規定の適用の有無を検討することになりますが、マスコミと個人で何か特別な差が設けられているということはありません。したがって、著作権者に許諾を取る以外の方法で著作物を利用したい場合は、誰でも等しく、これらの著作権法の制限規定に当てはまるかどうかの検討が必要となります。
田中:もっとも、著作権法の制限規定に相当するとしても、制作側と情報発信に関して何か事前に約束をしている場合はその約束の方が優先されると考えた方がいいですよね。
國松:もちろんです。制限規定の適用により著作権侵害は避けられても、当事者間の契約違反が自動的に許されることにはなりません。たとえば、制作側から写真の提供を受ける際「この写真は広報SNSなどでは使わないで欲しい」といった約束をしているようなケースでは、その約束を破ったこと自体で、契約解除などのペナルティを受けることもありますから、そこは注意してください。
田中:ロケ地サポートとしては、ロケ作品の関係者として「権利処理確認書」やプロモーション等の約束は守ることが大切で、ロケ地としての信用を得ることに繋がります。情報発信の際には、著作権法の制限規定に当てはまるかどうかも大事ですが、何よりも製作者との間の約束事をしっかり確認しておくことが大切です。もっといえば、そもそもロケ地を受け入れる段階から、後の情報発信のことを考えて、製作者と事前に色々と話を詰めておくことが大切だと思います。
國松:今日では情報発信のツールは多様性を極めていて、特にインターネットの世界では技術的革新によって、今まで想定もしていなかった形で著作物が利用されるなど、とにかく法律の方が追いていないのが実体です。現時点での法的見解、判例、あるいは法制度は、こうした社会の進歩に合わせてどんどん形を変えていきますから、特にメディア媒体を持つ利用者側でも、特に知的財産に関するネットリテラシーの向上に努めていかないといけませんね。
田中:ネットリテラシーとは、インターネットリテラシーの略称で、簡単にいえば、インターネット上での、著作権・肖像権等の知的財産の侵害や機密情報・顧客情報の流出リスク、その他炎上やウイルス感染リスクなどを十分に理解して、これらを利用・活用する能力のことをいいます。ロケツーリズムのSNS利用についてもSNSの機能やルールを理解するとともに、あらゆる情報拡散において知的財産法やプロモーション利用の可否検討を怠らず、創造的なコンテンツを造成する能力が求められています。ロケツーリズムの担当者にとってもしっかり備えておくべき能力だといえます。
ロケツーリズム協議会開催の「ロケエディターコース」では、このようなネットリテラシーを学ぶことができます。
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