映画『テネット』の撮影を可能にした、“時を越える”ロケ地
先進のIT技術、中世の街並み、無垢な大自然。
これらが共存する、時の境界を越えた場所がある。
EU公認の非営利プロジェクト「North Star Film Alliance(ノーススター・フィルムアライアンス、以下NSFA)」が海外の映像関係者を誘致する北ヨーロッパの3か国。
エストニア、ラトビア、フィンランドの国々とその地域だ。
<NSFA三か国の地図>
近年、ハリウッドやNetflix、インドのボリウッド、そして日本の制作者も注目し、実際にロケを敢行。数々の映画やドラマシリーズ、アニメーションなど、優れた映像作品を完成させている。
<エストニア、タリンの市街地>
NSFA地域で撮影され、今、世界中の話題を集めている映画は、なんといってもクリストファー・ノーラン監督の最新作『テネット』(2020)だろう。
時間を行き来するタイムサスペンスで、世界7か国でロケが行われたのだが、作品の世界観を表す役割を担ったのは、エストニアだ。多くの重要なシーンが、首都タリンで撮影されている。冒頭に登場するオペラ劇場は、ほとんど廃墟と化していた旧ソ連時代のコンサートホールを全面的に改修したものだし、時間が逆行する激しいカーチェイスは街の中心部を走る高速道路ラーニャ・ハイウェーで行われた。交通量の多い6車線を1日8時間、それも数週間に渡って封鎖したという。映画の宣伝文句でもある“未知なる映像”を観客が体験する、圧巻のシーンだ。ノーラン監督は、現地の協力があればこそ様々な撮影が可能になったと、タリンでの撮影を振り返っている。
<ラップランドのオーロラ>
フィンランドの美しい風景を映画にした日本のラブストーリー『雪の華』(2019)でも、日本の映画制作陣は、現地スタッフの仕事ぶりに大いに助けられた。とくにオーロラの撮影で訪れた北極圏のレヴィは、極寒の地。わずかな温度差でも水分が凍ってしまうため、曇ったレンズはカメラの故障を引き起こしかねない。経験のある技術者が適切なケアを施してくれたおかげで、難を逃れたのだそうだ。また、撮影の合間の食事もロケの楽しみのひとつだが、ケータリングで供された北欧名物のサーモンが入ったクリームスープ(Lohikeitto)はとても美味しく、冷えた身体を芯から温めてくれたと、日本のスタッフにも大好評だったという。
<北欧のクリームスープ、Lohikeitto>
日本とラトビアの合作映画、桃井かおりとイッセー尾形が主演の『ふたりの旅路』(2017)は、監督も含め、ほとんどが現地ラトビアのスタッフで構成されている。日本からは俳優陣とプロデューサーだけがラトビアへ。現地スタッフならではの目線が、スクリーンに生きている作品だ。
「バルト海の真珠」と呼ばれ、世界遺産に登録されているラトビアの首都リガ。
中世の面影を残すこの街が、兵庫県神戸市と姉妹都市だというのをご存知だろうか。
阪神淡路大震災で家族を亡くし、孤独を抱える女性が、リガを訪れ、過去と現在のはざまで幻想的な体験をするというストーリーは、観客にリガの魅力を伝える内容にもなっている。主人公が着物姿で石畳の続く通りをさまよう姿は、どこかノスタルジックで美しい。ラトビア出身の監督だからこそ、切り取ることができた「リガ」がそこにある。
<「ふたりの旅路 (原題”Magic Kimono”)」の撮影風景、ラトビア ©Krukfilms/Loaded Films>
NSFA3か国には、海外の映像関係者に向けた、奨励金プログラムがある。
現地制作費用に対し、エストニアで最大30%、フィンランドで25%、ラトビアで最大40‐50%のキャッシュバックをする形で、補助を行うというものだ。
煩雑な役所での手続きは簡単で、対応も迅速。
日本の関係者に向けた専用のアドレスもあるので、ぜひ検討してみてはいかがだろう。
コロナ禍の今だからこそ、未来を見据えた作品を。
問い合わせ先メールアドレス (日本語での問い合わせにも対応可能)
日本語ウェブサイト https://northstarfilmalliance.com/jp
※NSFAはエストニア映画研究所、ヘルシンキ市、及びリガ市議会により運営される、EU公認の非営利プロジェクトです。