『万引き家族』『そして父になる』…世界が注目する是枝作品5選
昨日(6/6)お誕生日を迎えた是枝裕和監督。最新作『ベイビー・ブローカー』が第75回カンヌ国際映画祭にて「男優賞」と「エキュメニカル審査員賞」を受賞したことで話題です。今回は世界も認める珠玉の是枝作品をロケーションジャパンのバックナンバーよりプレイバック!
1.『空気人形』(2009)
<STORY>
古びたアパートで持ち主の秀雄(板尾創路)と暮らす空気人形(ペ・ドゥナ)は、ある朝、本来持ってはいけない“心”を持ってしまう。秀雄が仕事に出かけると、洋服を着て、靴を履き、街へと歩き出す。初めて見る外の世界で、いろいろな人間とすれ違い、つながっていく空気人形。レンタルビデオ店で働く純一(ARATA)と出会い、店でアルバイトを始めた空気人形だったが――。業田良家の短編漫画を、9年の歳月を経て映画化。
主人公・空気人形を演じたのは『子猫をお願い』『リンダ リンダ リンダ』などで知られる韓国の人気実力派女優、ペ・ドゥナ。是枝監督の言葉通り、生まれたての赤ちゃんのような素直な感性と抜群のスタイルで空気人形を好演した。その演技力に加えて、“撮影が始まると風邪をひかないから大丈夫”と自ら是枝監督に話すほどのタフさを持ち合わせているそう。
ロケ地は主に東京都中央区八丁堀や湊周辺。撮影時にはいつも隅田川に水上バスが通っていたので、「空気人形がこの街に住んでいたらきっと乗りたくなるだろうな」と思い、実際に船に乗っているシーンが加えられた。秀雄(板尾創路)と空気人形(ペ・ドゥナ)が暮らすアパートも空き家を作りこんで撮影が行われた。惑星の飾りやポップな装飾を施し、非日常の要素を盛り込むことで、人形が動き出してもおかしくない空間を生み出した。
(№35より)
2.『そして父になる』(2013)
<STORY>
東京の大手建設会社に勤めるエリートの野々宮良多(福山雅治)と妻のみどり(尾野真千子)はある日、一人息子の慶多(二宮慶多)が生まれた群馬の病院から衝撃の事実を知らされる。6年前に赤ん坊の取り違えがあり、群馬で小さな電気店を営む斎木夫妻(リリー・フランキー、真木よう子)の長男、琉晴(黄升炫)こそが野々宮夫妻の実の息子だというのだ。良多は斎木夫妻の粗野な言動や生活環境を疎ましく思いながら、息子の“交換”に向けて動き始める。しかし、やがて自分でも思いがけない感情が湧いてきて…。
本作の主人公である野々宮良多(福山雅治)は、人生で手に入らないものはないと信じ、自分のようなエリート以外の人々を見下す尊大な男。そんな男が初めて挫折する姿を福山さんがナチュラルに演じている。「主人公をとにかく鼻持ちにならない男にしたかった。福山さんには『僕をよくご存じですね』と言われました。実際は僕自身の嫌な部分を反映させたキャラクターなんですけどね(笑)」と是枝監督。
出生時に取り違えられた主人公の息子が暮らすのは群馬県前橋市の電気店。これは主人公が住む都心のタワーマンションと対極にある空間として選ばれた。味のある外観と店舗兼住居らしい雑然とした空間がリアル。子役の演技を引き出すうえでも本物の家で撮ることは重要だったそう。また、ふた組の家族がバーベキューをしながら本音を吐露するシーンは埼玉県寄居で撮影を行った。監督が小学生の頃に遠足で行き、「幸せな家族はこういうところでキャンプするんだろうな」と思ったという長瀞河原がイメージのもとになっている。映画のポスターにも使われている象徴的な場面だ。
(№59より)
3.『海街diary』(2015)
<STORY>
しっかり者の長女・幸(綾瀬はるか)と自由奔放な次女の佳乃(長澤まさみ)、マイペースな三女の千佳(夏帆)。鎌倉に暮らす三姉妹のもとに、15年前に家を出て行った父親の訃報が届く。葬儀に参列した三姉妹は、そこで腹違いの妹・すず(広瀬すず)と出会う。実母が早くに他界し、院は父の三度目の結婚相手である義母を支える中学生のすずに、幸は「一緒に暮らさない?」と声をかける。秋の訪れとともに始まった四姉妹の和やかな生活。ところが、祖母の七回忌をきっかけに、秘められていた心のトゲが姿を表し始める。
本当の姉妹のように仲良くなった4人はカメラが回っていないときも常に一緒で、ガールズトークに花を咲かせていたそう。「物語の外では長女(綾瀬)と次女(長澤)の立場が逆転していました(笑)。あと、すずが夏帆さんからもらった服を嬉しそうに現場に着てきたこともありましたね」と監督。
四姉妹が暮らす香田家のシーンは、実際の民家を借りて撮影された。手入れされた庭や縁側など、原作の世界観そのままのぬくもり溢れる佇まいは「人が住んでいるからこそ出せる雰囲気」と是枝監督も絶賛する。「庭はもちろん、部屋のシーンもほぼあの家で撮ったので、撮影の間、お住いの方にはウィークリーマンションに移っていただきました。あの家と巡り合わなければ、この映画は撮れなかったと思います」
(№69より)
4.『海よりもまだ深く』(2016)
<STORY>
15年前に文学賞を獲ったきり、鳴かず飛ばずの小説家・良多(阿部寛)。妻の響子(真木よう子)に愛想を尽かされ、現在は妻とも一人息子の真悟(吉澤太陽)とも離れて暮らす身の彼は、興信所に勤めているが、探偵業は執筆業のためのリサーチだと言い訳を重ねている。そんな中、月1度の真悟との面会を迎えた良多は、響子が帰ってくるまでに今月分の養育費を用意すると約束するも手がなく、真悟を連れて母親・淑子(樹木希林)が一人で暮らす実家を訪れる。しかし、台風の雨風が次第にひどくなり、真悟を迎えに来た響子も良多の実家に泊まることに。そして元家族の彼らは一夜を過ごすことに――。
『歩いても歩いても』に続き、親子役を演じた阿部寛さんと樹木希林さん。脚本は二人を想定して書いたそうで、阿部さんに関しては「たぶん阿部さんは女性に囲まれて育ったんじゃないかな。強い女性たちを相手にして、受けの芝居が自然にできるんですよね」。阿部さんと樹木さんのシーンでは「男は今を愛せない」などの名台詞が続々。そこには監督のお母様の影響も。「樹木さんの『時代のせいにしちゃったのよね。自分のダメなところをね』というセリフは、父親が亡くなったときに母親が父親に向けて言った言葉。女性は厳しいですよね(笑)」
良多の母・淑子が暮らす団地は、東京都の清瀬市の旭が丘団地で撮影。実はこの場所は是枝監督が9歳から28歳までを過ごした思い出の地。「本当はほかの団地で撮影しようと思っていたんですが、公団は撮影の許可を取るのが難しくて。そこで『旭が丘団地は監督の出身地』だと伝えてお願いしたら、許可をいただけたんです(笑)」と監督。実際、撮影時には当時の是枝監督を知る住民たちが応援に駆けつけたとか。「最初は僕を知っている人たちが住んでいるので戸惑いもありましたが、脚本を書くときに自分の記憶にあった旭が丘団地を想定していたので、結果的にはここで撮影できてよかったと思います」
(№75より)
5.『万引き家族』(2018)
<STORY>
今にも壊れそうな平屋に暮らす治(リリー・フランキー)と妻の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)は、家主の初枝(樹木希林)の年金と万引きで生活費を稼いでいた。ある日、近隣の団地で震えていた幼い女の子を治が家に連れ帰り、娘として育てることに。しかし、ある事件を機に家族はバラバラに引き裂かれてしまう。
治たち一家の設定は、マンションに囲まれた下町の古い平屋。古びた家々を一軒ずつ捜索し、足立区荒川付近の孤立感漂う空き家に決定。また、信代の勤務先は東墨田のランドリーが採用された。是枝監督は脚本作成時からロケハンを行い、下町の風景を日常描写に反映している。
一家が束の間の幸せな時間を過ごす海水浴のシーンは、千葉県いすみ市の大原海水浴場で撮影された。家族ぐるみで万引き行為を日常尾的に行う訳ありな一家だが、はたから見れば、ごく普通のありふれた家族のように見える。そんな切なくも美しい瞬間をとらえた印象的なシーンだ。
(№87より)
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