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インタビュー&コラム

■クリエイターインタビュー

監督が生まれ育った町の “日常の空気感”を形にした映画 出身地だからこそわかる塩野峻平監督に制作の裏側とロケ地としてみた町の魅力を聞く

 

門真国際映画祭2020審査員特別賞を受賞など、意欲的に映画制作を続けている塩野峻平監督。
”商店街とタッグを組んだ”本作がいよいよ2024年3月16日(土)に無料上映会が行われます。
そこで、塩野監督に、本作でのこだわりやロケーションへの想いなどを語っていただきました。

Q. 映画『此処だけの話』は塩野監督が生まれ育った八王子市八幡町が舞台の作品ですが、どういった経緯で撮影されたのでしょうか?
僕が生まれてから大学卒業まで住んでいた、八王子市八幡町にある八幡町商店街の「くらま会」の方からの依頼で撮影が決まりました。
八王子まつりでくらま会が山車を出しているのですが、僕が4、5歳の頃から参加していて、そこで一緒になった方が、僕が映画監督をしていることを知っていたんです。例年は、町の歴史やお店を紹介するパンフレットを作成されていたのですが、今年は(映画監督をしている)僕がいるじゃん、ということで。
面白いことをどんどんやろう、という土壌と、監督を志す僕がそこに住んでいたことが繋がって、今回の映画製作に至りました。

Q. ご自身の故郷で映画を撮ってみて、いかがでしたか?こだわったことや、改めて発見した町の魅力はありましたか?
無理やりドラマチックな展開を作るよりも、そのままの日常を切り取るようにして、僕が見た景色を撮りたいと思いました。あまり特別な場所という風には撮らなくていいと思い、商店街の方々に相談したところ、同じような意向でした。普段目にするような景色が映画になっています。
東京といっても、都会でも田舎でもない風景の曖昧な感じが、主人公・なつこの白黒つけたがらない曖昧なニュアンスとマッチしました。はっきりとした色ではなくて、グラデーションの中の、にじみ出てくる感じを作品に出したいなと思って撮影していました。
他にも、お互いに一歩踏み込むような人間関係ではなくて、お互いの輪郭だけ触れ合うようないい距離の取り方が、この八幡町にはあると思い作品にも反映させています。役者の皆さんにも、会話の場面では距離感を意識してもらいました。お互いのテリトリーに入り、干渉しあうのではなく、輪郭が分かった上で触れ合うような関係性で成り立っているこの町の魅力を、作品を通して感じてもらえればと思います。

Q. 今作のロケ地探しについてお聞かせください。限られたエリア内でロケ地探しをする際に気を付けたことなどありましたか?
出来る限り、そのままを投影したいと思いました。主人公・なつこが住んでいる町ということで実家の鰹節屋から銭湯に行くのも公園に行くのも生活圏内で、リアルな距離感を意識しました。
ここ(八幡町)だけの話を撮ろうと思っていたので、見る人もそこに住んでいる人たちだと考えました。だからこそ、何かそこで違和感があってはならないと思っていました。
ロケハンの時には、そこに住んでいる人の話であれば、そこに住んでいる人の生活が見たいと思い、撮る撮らないは別として、店の中から裏側まで一旦全部見せてもらいました。僕自身もロケハンをしていて、「裏がこうなっているんだ」と、住んでいても普段見られない店舗の裏側を知れて、楽しかったです。

Q. 印象に残っているロケ地はありますか?
いくつかあります。銭湯は町の象徴的な場所で、僕も子供の頃よく行っていました。(自分の名前を)名乗ると銭湯の方がわかってくれるくらいで、すごくやりやすかったです(笑)。
鰹節屋も、父がよくお世話になっていて、快く対応してもらいました。
公園は、「くらま会」の方に聞いたら、40年くらいずっと変わっていないとのことで、あそこ(八幡町)に住んでいる人は何かしらの記憶とリンクする場所なんじゃないかなと思っています。
撮影する上で、住んでいる人が共有できるような、知っている場所で撮影すれば、映画を観たときに「おっ」と思ってくれることを期待しています。

Q. 今回の作品を通して気づいたことはありますか?撮影地「八幡町」について出演者の方とはどんな話をされましたか?
何かドラマチックな事件が起きそうな刺激的な街ではないと思っていました。夜は静かで、小さな町。改めて監督目線で町を見ると、なんか良い子供時代を過ごしてきたのかな、そんな悪いもんじゃなかったなと気づきました。
主演のつかささんは、漠然と「なんかいい町だね」と懐かしさを感じていたようです。何が良い、どこが良いではなく、自然に居ることができる場所だとも言っていました。他所から来ても、よそ者を受け入れることに抵抗がなく、むしろ誰でもノスタルジーすら感じる町なんだと思います。

Q. 地元や商店街の方々は今作にどのような関わり方をされましたか?
くらま会の方のサポートはありがたかったです。撮影やロケハンのお手伝いもしていただきましたし、上映会の宣伝や、ポスター・チラシの配布も手伝っていただきました。
会長の中野さんには写真撮影の時のカメラマン役をやっていただきました。銭湯のテレビモニターに流れているのも、中野会長のYouTubeなんです(笑)。他には、美容院の子供役や鰹節屋のお客さん役として地元の方に出演していただきました。

Q. 今回の作品はどんな方に観てほしいですか?
まずは、八王子八幡町に住んでいる方です。「自分の町で映画が撮られている」という事実を、映画を通してシンプルに楽しんでほしいです。
町の人だけではなく、それ以外の人にもこの映画を観て、八王子市の八幡町を知っていただきたいです。映画自体を楽しんでもらえることも嬉しいし、八王子の小さな町で1本の映画が撮られたという事実が広まればいいな、と思います。

Q. 最後に今後の目標や展望をお聞かせください。

大学で作品作りを始めて、卒業後はフリーで映画製作をしていたのですが、映画祭がきっかけで今年からスターダストに所属することになりました。スターダストの他の映画監督の方々からも刺激を受けているところです。今は企画書をどんどん出していて、まずは、この企画たちを映像に残していけたらいいな、と思っています。段階を上っていき、多くの皆さんに観てもらうような映像を作っていきたいです。

映画『此処だけの話』
【あらすじ】
鰹節屋の祖父母の家で生活する主人公・なつこ。大きな夢もなく、行き当たりばったりで日々を心地よく生きている。少々複雑な家庭環境に身を置きながらも、祖母や地域の人々と関わり合いながら生きるなつこ。小さな町を舞台にしたヒューマンドラマ。【作品情報】
出演:つかさ
有希九美、佐々木藍、林田麻里、佐々木勝陽、陣慶昭、手島実優、笹野高史 ほか
監督・脚本・編集・プロデューサー:塩野峻平
音楽:釘本勇気
撮影監督:近藤実佐輝
主題歌:「ハロー」ikachan
制作:Baboo
企画製作:八幡上町商店街くらま会【イベント情報】
日時:2024年3月16日(土)開場13:45 上映14:00~、15:15~(全2回)
場所:八王子学園都市センター イベントホール(八王子市朝日町9-1八王子スクエアビル12階)
イベント内容:出演者・監督による舞台挨拶を予定しております。
入場無料、予約不可 ※入場については先着順とさせていただきます。【Interview】
監督・脚本・編集・プロデューサー:塩野峻平
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