ホーム > インタビュー&コラム

インタビュー&コラム

■クリエイターインタビュー

アベラヒデノブ『あの子の子ども』

桜田ひより主演のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『あの子の子ども』(毎週火曜23:00~)が9月17日についに最終回をむかえる。
今作は、蒼井まもる氏の同名少女漫画を原作とし、妊娠に向き合う高校生カップルとその家族や友人の姿をリアルに描く“ラブストーリーの一歩先”の物語。 チーフ監督を務めたアベラヒデノブさんに、作品の見どころやこだわり、ロケ地選びについて聞いた。

Q. 今作品の監督オファーが来た時の心境は?

お話いただいてから漫画を拝読し、深く心に突き刺さるこの繊細な作品を僕自身がやれるのかという不安が最初はありました。
ただ、オファーをくださったカンテレの岡光プロデューサーがすごい熱量を持っていて。僕の中にある繊細さがマッチするのではないかと言ってくださったんです。センシティブなテーマを取り扱っている作品ですが、それをエンターテインメントとして面白いものに仕上げて、連続ドラマのパッケージに昇華していくことで初めて多くの方の元に届くのではないか、などいろいろお話を伺いました。

―打合せ段階からかなり議論を交わされたとか。

そうですね。不安はちゃんと共有しました。様々な議論が展開されたのですが、正解不正解といった答えを押しつけるようなドラマになってはいけないので、正解のない着地点をどういう風に紡いでいくかということは何度も何度も話し合いました。

―“高校生の妊娠”というテーマにどう向き合っていったのでしょうか。

妊娠、出産、中絶ってやはり10人いたら10通りの考えがあるんです。考え方に全部はマッチできないけども、ドラマとしてはどれか一点に絞って、答えを提示しなければいけないのかなと思うのですが、それをメッセージとしてこちらで勝手に決めつけてしまうことはよくないと思うんです。だからドラマとしての答えというよりも、そこで生きる人々にフォーカスを当てて、主人公たちが妊娠を機に何を考えて、探して、どういう選択をしていくのかを見守る姿勢で僕らも作っていかないといけない。そのために、部署を超えて全員で話し合いました。
僕が良いというものが別の人からすると良く思わない場合もあります。今35歳の1人の男性のいち意見なので、監督の考えとして決め付けるのではなく、制作チームに聞きながらそれはこうじゃないかっていう意見を出しながら、全員で作っていった作品という感覚はあります。

 

Q. 撮影中、特にこだわったところを教えてください。

脚本の本当の意図を視聴者さんに届けるということを意識しました。蛭田直美さんが書かれた脚本のこの部分が本当に大事な部分だから、そのセリフを話している人を映すという、ある意味スタンダードなアプローチだと、「この瞬間誰の表情が大事なのか」とか「このセリフは大事だからこそ、聞いている人側を映さないといけないんじゃないか」とか、そういうことは僕自身も発見しながら、編集ではそこを一番念頭に置いていました。
その工夫が、登場人物一人一人の表情が輝いてるというようなことに繋がっていっていたら嬉しいなと思います。

Q. 撮影において苦労したことはありますか。

やはり監督として、仕事として、プロフェッショナルとしてちゃんと向き合いつつも、勉強し続けるのが監督としての仕事だと思うので、そういう意味で言うとこれまでにない一番勉強をし続けなきゃいけない作品だと思いました。
6話がこの編集でうまくいったから7話もうまくいくのかと言ったら違いますし。話ごとにアプローチを変えていかないと、このセンシティブな議論は場合によっては誰か傷つけてしまうかもしれない。でも誰も傷つけない編集にはなっているけど面白いのかと言われたら、エンタメとしては不十分だとか。そういうことを考えたときに、誰も傷つけないし答えも出さない。けれどその上で1人も見ている人を取りこぼさないという、「これはテレビドラマであって、エンターテインメント作品。」という軸だけはぶれないようにしました。チャンネルを変えられたら終わりですから。

 

Q. 原作漫画では冬から物語が始まりますが、ドラマでは夏になりましたね。

原作では、線がふわっとしていて光のきらめきや屈折した空間みたいなものを重視して書かれています。それがとても印象的で、設定が夏になったとしても、あの何とも言えない雪に包まれているふんわりした優しさや、見ているだけで癒される原作の良さを出していこうと調整しました。場面によっては夏の光ですら、シルエットをうまく使えば暑い季節なのに視聴者さんにとっては冷たい印象を受ける。いい意味でね。そこの表現はとても工夫した点かもしれないです。

―夏なのに冷たく見せる工夫とはどういうものなのでしょうか。

そこは照明部にすごく頼りました。
実は見えてない外ロケにも照明部のやるべきポイントはたくさんあって、その細かい工夫が外ロケのシーンでも出ていると思います。
例えば主人公たちの頬に木漏れ日が落ちているじゃないですか。自然が多い環境で撮ったからといって、日光はもう刻一刻と移動して影も動いていくため、その中で実は照明を足したり、偽物の木々の枝をつけて木漏れ日を作ったりします。
そのロケーションごとに起こりうる一番美しいシチュエーションをギミックとして組み立てるようにしています。
限られた時間の中ということもあり、ドラマではあまりそこまで手をかけないので、こだわってくれた照明部には感謝しかないです。

Q. 学校や神社、土手など…生活感あふれるロケ地が印象的ですよね。

今回特に公園探しに苦労しました。最初は主人公たちの近所にある、ブランコやベンチや砂場があるという一般的な四角い公園をイメージして探してもらっていましたが、いざ見に行ってみると、4話を作り出せるシチュエーションには達しないのではないかということで難航しました。この公園は、後半話にいくにつれ、どんどん主人公2人にとって人目のない、2人だけで会話をできる愛しい場所になってきます。
それにふさわしい場所にした方がいいのではないかということになり、当初候補から外していた緑地公園に一度行ってみようということになりました。
実はその日、別の公園候補にもロケハンに行っていて、その場所から今回の公園まで1時間半の移動が必要ということで葛藤もありましたが、みんなで意を決して「行こう!」ということになりました。
実際現地につくと、「すごい何この景色!!」と、みんな初めて海外旅行来たかのように一気にテンションが上がって、ここしかないと即決でした。
その時に、苦労や合理的な判断だけでは見えてこないものがあるなと感じました。あの時ロケハンで1時間半かけて移動するといったような、一見無駄に思える努力が線になった瞬間をみんなで体感できたぐらい好きな公園になりました。

―福(桜田ひより)が通う学校のロケ地は、ロケなび!でも紹介している千葉県茂原市の学校ですね。

あの空気、元々中学校だったみたいで、すごく良かったですね。
最後クランクアップまでの3日間は茂原市での撮影でした。10話、11話、12話の学校のシーンは最後の3日間で一気に撮っていましたが、今一番思い出深い土地かもしれないですね。
空き時間に裏門から出て少し左の細路地を抜けると、住宅街に囲まれた広い田んぼがあって、たまにそこに1人で腰掛けて息抜きをしていました(笑)
僕にとって街全体がすごく癒される場所でした。いい街ですよね。
今作では学校を優先的に撮っていましたが、通学路やそれ以外の道でも使いたいシチュエーションがいっぱいありました。あの学校裏にある田んぼ道は1回でいいから使ってみたいですね。

 

Q. 普段からロケ場所を決める時のこだわりはありますか? 

しっくりくるかこないかはとても大事にしますね。
台本が成立するかそれ以上のものがないと、ドラマを見ている視聴者さんの思い出になるようなワンカットが撮れそうな場所を意識しています。思い出になるかならないか、結構ポイントです。恥ずかしい言葉ですけどすごく大事にしています。

Q. 最終話に向けての見どころを教えてください。

福(桜田ひより)と宝(細田佳央太)がたどり着く、ドラマの最終ゴール地点であり彼女たちにとってのスタートライン、それにまつわる周囲の人々それぞれの物語も含め、ドラマの世界全体が躍動していきます。
登場人物1人1人が、きっと強く挑戦し、輝く最終回になるのではないかと思っています。
最後まで2人を見守ってよかった、あの子の子どもという世界を見守り続けてよかったと思っていただける12話になっていると思いますので、ぜひお楽しみに。

 

Q. アベラさん自身のことになりますが、俳優としても活躍されているその経験が監督職に活きているといったことはありますか?

良くも悪くもあると思います。自分が演者として現場経験させていただいた時に「これやりづらいな」とか「ここまでプレッシャーかけないで欲しかったな」とか、自分が出た時のこの感覚は一生残っているので、それを俳優部にはしないように心がけたりする時はあります。ただ、その配慮が行き過ぎるときもありますね。
俳優部さんも十人十色、いろんなパターンの方がいるので、自分の経験を本当はそこまで監督やるときは活かしすぎなくていいとは思うんです。
ただ、空気作りが大事な現場において、俳優の経験は活きているのかなと思います。
例えば涙を流さないといけない時の前に監督が、「昨日何食べたの?」とか、意外と冗談ベースで話してこられる方もいらっしゃる。僕も基本陽気ではいたい人間ですが、そこは自分が今から泣かないといけないぐらいの気持ちで監督として振る舞いたいと心掛けています。

Q. 最後に、監督を目指す若手制作者たちに、メッセージをお願いします。

「苦しい」が大前提と思いながらやった方がいいと思います。
苦しまないとたどり着けない領域が絶対あって、良いものを作るために苦しむという過程は絶対に必要。でもその苦しみをどうやって楽しむかということが自分たちのモチベーションなのだと思います。
それが本当に「苦しい」だけが残ったら続けられる仕事ではないので、「苦しい」は“良いものが生まれる予兆”だと思っておいた方がいいと僕は思いますね。苦しいのは何かがうまくいってないからで、何かがうまくいってない違和感は、考え抜いたら三つまでしか出てなかったけど、急に99個目にたどり着くような答えがぽっと出たりする。それは苦しまないと生まれないし、楽しいだけでは生まれない領域は絶対あると思います。
今作の公園のロケ地探しもそうですね。一度この場所で撮影するとなったことを全部捨てる判断をしたことはある種苦しみでした。その苦しみのおかげで、作品に合ったロケ地を見つけることができました。早く終わりたいと思ってしまったなら、見えなかった景色です。みんなで公園に向かう途中、ドライブスルーに寄ったことも楽しかった思い出。
どんな苦しみにも楽しめる方法はありますし、苦しみは絶対に必要な過程だと思います。

『あの子の子ども』

【放送枠】毎週火曜よる11時(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)
【タイトル】火ドラ★イレブン『あの子の子ども』
【出演】桜田ひより 細田佳央太 茅島みずき 河野純喜(JO1)                                                                     野村康太 ・ 前田旺志郎 橋本淳 菊池亜希子 ・野間口徹
美村里江 石田ひかり 他

【原作】蒼井まもる『あの子の子ども』(講談社「別冊フレンドKC」刊)
【脚本】蛭田直美
【音楽】haruka nakamura
【主題歌】THE BEAT GARDEN 「わたし」(UNIVERSAL SIGMA)
【オープニング曲】りりあ。「ねえ、ちゃんと聞いてる?」(VIA/TOY’S FACTORY)
【監督】アベラヒデノブ、山浦未陽、松浦健志
【プロデューサー】岡光寛子(カンテレ)、伊藤茜(メディアプルポ)
【制作協力】メディアプルポ
【制作著作】カンテレ

《1話と最新話はTVerにて配信中》https://tver.jp/series/srere8mt3c
《1話〜最新話まではU-NEXT・FOD・カンテレドーガにて配信中》
U-NEXT:https://x.gd/h9zwk
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/title/70tb/
カンテレドーガ:https://ktv-smart.jp/store/series.php?id=KTV7040
※最新話は無料

【Interview】
監督:アベラヒデノブ

 

この記事をシェアする

©Location Japan. All rights reserve