LJ特派員★伊庭野はるかのバルセロナ日記 Vol.57
【スペイン・バルセロナでの新型コロナウイルスをめぐる状況…
住民の意識の変化は?アジア人差別は?今何が起きているのかレポートします】
バルセロナはすっかり春の陽気。花粉症に悩まされつつも、暖かな日差しに心が和む季節です。
いつもコラムをご覧になってくださっている皆様には春ならではの楽しい話題をお伝えしたいのですが、こちらでの生活をご紹介する上でも「新型コロナウイルスの問題」をもはや避けることはできないと感じ、皆様にお伝えすることにいたしました。
スペインでの新型コロナウイルス感染者の数は、この2週間で爆発的に増えてきており、多い日では一日で倍以上の感染者が確認されます。私はこちらでの報道や地元に住む人々の話を聞くことで情報収集をしていますが、住民の中に日々じわじわと波のように不安が押し寄せてきているのを感じています。
命がけで向き合ってくださっている医療関係者や研究者、そしてこの問題に向き合うべく努めているすべての方々に敬意を表するとともに、今私の周りで何が起こっているのかを、これまでの経緯を辿りながらお伝えしたいと思います。
生活者の視点としてあくまでも私見となりますが、スペイン国営放送の報道と保健省の発表、そして私の体験を中心にご紹介します。
<1月末…離島で感染者確認、大規模イベントの中止が大きな話題に>
1月上旬に中国で初めてウイルスが検出され、中旬に日本で初めての感染者が出た頃、スペインでの報道は「アジアでの出来事」という括りで、「アジアで大変なことが起きたのだなあ」と、皆お茶を飲みながら話す程度だったように思います。
そして1月末、スペイン領の離島であるカナリア諸島で初めて感染者が出たときは大きなニュースとなりましたが、周囲でも「上陸しなければ大丈夫、心配ない」と高をくくる声が多く聞かれたのが印象的でした。
少し意識の変化が感じられたのは2月中旬。中国で亡くなった方の数が千人を超えて間もなくのこと。毎年2月下旬にバルセロナで開催される世界的なモバイル端末と通信の見本市「モバイル・ワールド・コングレス」の中止が発表されました。毎年世界中の通信や精密機器の企業がこの見本市に出展するためにバルセロナを訪れているので、ここでかなりの経済的な損失があったようです。
この頃から、地元の人々の間でも「何かがおかしい、これはまずいことが起こるのではないか」という声がささやかれるようになりました。ただ、この見本市が中止となったのも、先に数々のアジアの企業が出展中止を見合わせたために中止にせざるを得なかったという事情もあったようで、この頃もまだ“生活者レベルでの実感”はなかったように思います。
2月中旬、武漢からのチャーター機5便が到着し、横浜港に停泊したクルーズ船から乗客の下船が始まった頃。一方のバルセロナでは「2019年にスペインを訪問した観光客の数が新記録を更新した」という明るいニュースが。そのうちおよそ2割が、バルセロナのあるカタルーニャ州を訪れた人々だということも話題になっていました。
この頃までは、こんな穏やかなニュースも私の周囲では話題にのぼっていたのです。
<バルセロナで感染者確認 消毒液が姿を消し、人々が手を洗い始める…>
そして2月26日、スペイン本土・バルセロナで初めての感染者が確認されました。
その前日にはバルセロナから遠く離れたテネリフェ島で観光客の感染が確認されたホテルが閉鎖され、千人もの人々が検疫を受けているというニュースが出たばかり。
「ついに来たか…」と誰もが思ったようで、この日を境に、薬局やスーパーマーケットのアルコールジェルや消毒液が姿を消しました。
これは、比較的楽観的なスペインの人々に、このウイルスの怖さがそれほど浸透してきているということ。
(心配性の私からすると、「みんな、アルコールジェルを買うタイミングがちょっと遅いのでは…しかも、一人で何本も買わなくても」と思ってしまったのですが、、、)
レストランで働いている友人に聞くと、「ここ数日、スペイン人のお客さんが、食事前に手を洗うようになった!」と驚いたように言っていました。こちらの人々は食事前に手を洗う習慣はあまりないようなのですが、そんな彼らの多くが食事の前にお手洗いに行くようになったというのです。多くの人々が、生活習慣を変えようとし始めたのがこの時だったようです。
私の住んでいる隣のエリアでも感染者が確認されました。その20代の感染者の住むマンションの前に救急車が止まり、防護服に身を包んだ2人の救命士が担架を抱えている写真がニュースサイトに掲載されたのが印象的でした。
それから2、3日の間に10人、20人…と、日々報道される感染者数が増えていきました。
<日本で休校要請、それを聞いたバルセロナの人々の反応は… そして、アジア人ならではの体験も>
この頃、日本では学校の休校の要請が発表されました。こちらでは大きなニュースにこそなりませんでしたが、私が街でこのことを話すと、「その間子ども達は何をして過ごすの?」「信じられない!期間が長すぎる」など、どちらかというと否定的な意見が多いように感じました。まだまだ人々の危機感はないように感じました。
残念なことに、一部の人々がアジア人を差別したり、アジア人をからかったりするという話が私の周囲でも度々聞かれるようになりました。私もバスや電車の中で、「何となく見られてるな」「いま咳をしたら何か言われそうだな」と感じることは度々ありました。
よく聞くのが、道や交通機関などでわざとらしく避けられる、通りすがりに「コロナウイルス」「帰れ」と言われたなどの行為。身体的な暴力でこそありませんが、見た目だけで相手を傷つけることは許されないと憤りと悲しみを感じます。
私自身は、幸運なことにそのような場面に遭遇したことはまだありませんが、こんなことがありました。
幼児教室のロビーで娘を待っている時、6歳くらいの男の子が私の隣に座ろうとしました。すると彼は自分の椅子を持ち上げてわざと私から席を離し、傍にいた母親に「この人はコロナウイルス、危ないよ」と話を始めたのです。
それを聞いた母親が彼を諭しているように見えたので、私は「心配しないでね」とだけ伝えました。
子供は素直なので、病気への恐怖心からお母さんに危険を伝えようとしたのでしょう。
子供は大人の話をよく聞いていますから、不必要に恐怖を煽らないように、そして子供たちが学校で嫌な思いをしないように注意しなければと思った出来事でした。
<止まらないスペインでの感染者数の増加、観光地も閑散と…>
その後、スペインでの感染者数はすさまじい勢いで増えていきました。昨日は60人だったのに翌日は120人、その翌日は200人…という勢いで、3月前半のうちに千人を越えました。
ヨーロッパでの感染の急増により、「アジア人の問題ではない」という意識も浸透してきているようで、2月よりも“アジア人に向けられた何となく冷たい視線”を感じることは少なくなりましたが、喜んではいられません。
3月上旬に行われる予定だったバルセロナ市民マラソンは延期となりました。さらに、この数日爆発的に感染者が急増しているマドリードでは、2週間の間、学校を休校とすることが発表されました。
バルセロナを訪れるアジア人観光客はかなり減ったようで、以前は街を賑わせていたアジア人団体客もほとんど見かけなくなりました。とはいえ、3月上旬は観光名所には今も人々が集まり、皆つかの間の非日常を楽しんでいるようでした。
<バルセロナでも学校の休校が始まり、トイレットペーパーも姿を消す>
事態が急変したのは3月10日。スペインの感染者のおよそ半分を占めるマドリードで、トイレットペーパーなどの生活用品、そしてパスタなどの食品の買い占めが起こっているという情報が拡散されると、バルセロナでも同じことが起こりました。
この日の夕方、買い物をして少ししてから同じスーパーに戻ると、ものの数十分でトイレットペーパーの棚は空っぽ。かろうじて、キッチンペーパーだけがぽつぽつと置かれている状況でした。自然災害が多く、避難することに慣れている日本の方々には珍しい光景ではないかもしれませんが、バルセロナではここ数十年では一度も起こっていなかったそう。多くの人々がどうしたらいいかわからず、右往左往しているようでした。
観光地エリアでも徐々に変化が起こりました。サグラダファミリアも入場制限が始まり、多くのコンサートのキャンセルも予告されました。また、いくつかの航空会社がフライトのキャンセルを発表し、ヨーロッパ内での移動もしにくい状況になってきました。
その翌々日には、ついにバルセロナでも学校の休校が決まり、不要不急の移動を控えるよう通達がありました。いつかはそうなるだろうと思っていましたが、予想より判断が早い印象です。生徒に配られた紙には、「公園やレストラン、映画館など、人が集まるところに行くのはおすすめしません」と書かれていました。
もともと、休校が開始されるのは「翌週月曜から」と発表されたのですが、数時間後に「明日から休校」という措置に変更されました。この通達が出た直後、スーパーマーケットに人々が殺到したのは言うまでもありません。
バルセロナでは祖父母世代と同居したり、子育てを手伝ってもらったりしている親世代が多いので、子供が学校で感染してすぐに祖父母世代にも感染し重症化するリスクが高いことも、休校の理由のひとつのようです。
多くの地元の方々は「衛生に気を付けつつ、なるべくいつも通りに過ごそう」と言っていましたが、この時ばかりは周囲の人々がとても焦り、余裕がなくなっているように感じました。
今後、私も含めどのような変化が訪れるかわかりませんが、常に的確な判断ができるよう気を引き締めて生活していきたいと思っています。
バルセロナを訪れる人々の歓声や、生き生きとした街の風景が戻ってくるよう、早くこの問題が収束することを切に願うばかりです。
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