栃木県那須町・北温泉旅館テルマエ・ロマエ
「古いまま、そのままがうれしい秘湯!」
『テルマエ・ロマエ』のロケ地である那須高原の北温泉に行ってきた。東京は猛暑日だったが、上越新幹線の那須塩原駅からバスで1時間半近く、北湯入口バス停に降りたら、まさに爽やか。まさに高原。バス停から1,170mと立て看板が出てるが、車は少ないし、空気はおいしいし、気持ちいい散歩だ。いろんな鳥が鳴いている。
途中見晴台があって、ここから遠くに見える「駒止の滝」が素晴らしい。深い山々の中心にそこだけ抜き出したように、白い飛沫を立てて流れ落ちる滝が見える。滝が小さく見えるのが逆に神々しい。このあたりは那須御用邸地として管理されていたが、平成23年に「那須平成の森」として開放された。自然観察路も整備され、散策やトレッキングが楽しめる。いつか歩きたい。
そこから路が細くなり、緑の中を下っていくと谷底に北温泉の宿が現れる。木造で湯治場のような、秘湯っぽい感じだが、時代の風格も感じる。
「初めて来た人は、宿に入ってくると、たいてい『ええっ』って言うんですよ。それは、どっちの『ええっ』ですか?って。いい方か悪いほうか」
宿の人が笑って言った。わかる。ボクも心で「ええっ」だった。普通の温泉宿とは全然違う。ボクは、いい方の予感ビンビン。
玄関入るといきなり薪ストーブがある。天井が低い。湯が出ている古い石の足洗い場。ソファもあるが火鉢もある。古い箪笥。見えるものがみんなコゲ茶色っぽい。雑然としているが息苦しくない。風通しがいい。フロントは「帳場」という雰囲気だ。足元を三毛猫が通り過ぎる。立寄り湯もやっているので、山歩きの人も入ってくる。
ボクは明治時代に作られた部屋に案内された。まだコタツが出ている。エアコンはない。窓の桟がシブイ。布団の上げ下げはセルフ。気を遣わなくていい。さっそく浴衣に着替えて風呂に向かう。
(続きはロケーションジャパン64号で)
くすみ・まさゆき
東京都出身。作画・和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」で描いたマンガ『夜行』でデビュー(81年)。実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B作の『中学生日記』(青林工藝舎)で第45回文藝春秋漫画賞を受賞。原作マンガ『孤独のグルメ』(扶桑社)、『花のズボラ飯』(秋田書店)は揃ってドラマ化。漫画、エッセイ、切り絵、音楽など、多方面で活躍中。最新作、漫画版『野武士のグルメ』も大好評、絶賛発売中!