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インタビュー&コラム

■クリエイターインタビュー

松竹・西麻美プロデューサー

不朽の名作漫画の10年後を描く、映画『耳をすませば』が10月14日(金)に公開された。

清野菜名・松坂桃李の豪華W主演や、原作の世界観を忠実に表現した装飾も話題になっている。そんな大注目の映画『耳をすませば』の魅力や裏話、小道具やロケのこだわりについて、自身も原作ファンだという松竹の西麻美プロデューサーに聞いた。

 

©︎柊あおい/集英社 ©︎2022『耳をすませば』製作委員会

 

<原作の世界観を大切に、枝葉の1つとしての物語>

 

——中学時代の物語と10年後の物語を交えて描くというのは、どのような経緯で思いついたのでしょうか?

 

西さん:私も大好きな『耳をすませば』の雫ちゃん・聖司くん像を変えないためには、中学生が演じる必要がある。でもそれだと興行的に厳しいのではと思い、実写映画化するにはどうしたらいいかを悩んでいたところ、「大人になったという設定にしたらどうか」と話になりました。大人パートと子供パートで、過去を振り返っていく。ただの回想ではなく、私たちファンが大切にしている2人が、大人になったらどうなっているかな、という、ちょっと‘’ifもの‘’みたいにできたら面白いのでは、と思い至りました。

 

 

——原作ファンとして、ファンをがっかりさせない自信はありますか?

 

西さん:作中で杉村(山田裕貴)が言う、「多分人間っていろんな選択があって、それが未来に繋がっている」というニュアンスのセリフがあります。そのセリフ通りで、10年後の2人の姿の正解はこれだけではなくて、枝葉がいっぱいあるうちの1つの形としては面白いものができたのではないか、と個人的には思っています。

 

 

——ファン目線で、そこまで『耳をすませば』に惹かれる理由はなんですか?

 

西さん:恋愛だけではなく、友達であり同志である2人の関係性が、とても素敵だからでしょうか。単なるラブストーリーではないんです。「好きな人ができて嬉しい」だけではなく、2人で夢を見つけて、その夢に踏み出して、お互いが応援し合う。もっと崇高なものが描かれているのがどうしようもなく惹かれる理由だと思います。

 

 

——2人のシーンが少ない中、聖司の家で雫ちゃんが歌うシーンは非常に印象的で、見どころの一つだと感じました。やはりあのシーンには思い入れがあるのでしょうか?

 

西さん:そうですね。あそこが本編で言うと、クライマックス前の1番の盛り上がりポイントだと思っています。演出家である平川監督が本を書いていることが非常に効いている、と感じました。普通だったら、中学生時代の2人が夢の第一歩記念だから歌おうよ、でそのまま歌わせてしまうと思います。

そうではなく、今まで楽しくなかったこと、とても悩んでいたこと、でもそれを消化できるのはきっと、この2人の関係性しかないんだ、というのが分かりやすく表現されている。ああいう見せ方は、さすが演出家だなと。照明とかもすごく時間かけてこだわったのもあって、ファンタジックでいいシーンになりました。

 

 

<キャストも小道具も主題歌も、細部までこだわる>

 

大人時代と、子供時代の変化に注目 ©︎柊あおい/集英社 ©︎2022『耳をすませば』製作委員会

 

——大人になった10年後の2人を演じたW主演の清野さん、松坂さんはいかがでしたか。

 

西さん:ぴったりという言葉以外ないです。2人ともとっても好感度が高い。アニメの世界観にも、漫画の世界観にも通じる清潔さを、よく体現してくれました。

松坂さんは元々『耳をすませば』のファンだというのもあって、聖司くんを演じられるのは彼しかいないと思います。1つ1つの所作が聖司くんっぽい。聖司くんは中学校の時にはちょっと大人ぶっていたんですが、実際に大人になった時にそのままだと、ちょっと嫌なやつになってしまう。ですが松坂さんは中学生の聖司くんっぽさを残しつつも、いい大人になっているという雰囲気を、すごく感じました。

 

 

——なぜ主題歌に「翼をください」を選ばれたのでしょうか?

 

西さん:2人が自然に学校生活の中、日常生活の中で共通認識として知っている合唱曲で、それを聖司くんがアレンジしてチェロで弾いているのが不自然でない歌、というので決めさせていただきました。原作では聖司くんは画家志望なのですが、実写映画なりの見せ方や形を考えた結果、チェリスト志望に変更しました。

もともとは劇中歌のつもりだったんですが、やっぱりとても作品と親和性が高いので、主題歌もそのカバーにしようというのが後から決まりました。

 

 

——小道具や衣装のこだわりは?

 

西さん:美術の方が世界観をしっかり理解し、地球屋の中の再現や、誰も見ていない細部までこだわってくださいました。聖司くんやおじいさんがチェロを弾く部屋がありますが、おじいさんはチェリストでありかつ楽器製作者という設定にしたので、バイオリンなどが壁に掛かっているんです。また、バロンも人形作家の奥田拓郎さんがエンゲルス・ツィマーの出し方など細部までこだわって作ってくださったので、素晴らしい出来でした。

 

<納得できるロケ地のために、何度も交渉>

 

コロナの影響で撮影は日本で行われた。ロケ地はポルトヨーロッパ、佐倉マナーハウス、横浜市金沢動物園など。選定の理由を西さんに聞いた。

ポルトヨーロッパ ©︎柊あおい/集英社 ©︎2022『耳をすませば』製作委員会

 

——ポルトヨーロッパ(和歌山県和歌山市)、佐倉マナーハウス(千葉県佐倉市)、金沢動物園(神奈川県横浜市)をロケ地に選んだ理由を教えてください。

 

西さん:もともとイタリアで撮影しようと進めていて、2年前にロケハンにも行きましたが、コロナ禍になってしまい、1年半ぐらい粘ったのち、断念しました。そこからポルトヨーロッパやスペイン村、自由が丘などイタリアを模した場所を見て回り、1番街並みとして使えるポルトヨーロッパに決めました。そのまま映すと他の作品と一緒になってしまうので、左半分はポルトヨーロッパ、右半分はイタリアの街を合成したりして、こだわりました。

 

佐倉マナーハウスは結構序盤に決まりました。取扱注意のものが多いので、地球屋の中はセットにしようと決め、外観を探していました。地球屋を模している素敵なお店がたくさんあったのですが、例えば大通りに面していたり、機材が入れないような小道にあったり。その店に行く道のりも大事なので、なかなか難しくて。

そんな中、佐倉マナーハウスはみんなで見に行って、満場一致でここにしようと決まりました。やっぱり外観も素敵ですけど、店に行くまでのスロープが広くて撮影もしやすいし、ビジュアル的にも素晴らしかったです。

 

ロケ地で1番探すのに時間がかかったのは高台です。聖地である聖蹟桜ヶ丘も見に行ったのですが、入ってはいけない場所にある丘ですし、町はよく見えますが斜面なので、そもそも撮影がしづらい。カメラを設置すると考えると難しいと思いました。街並みの見え方と、ちゃんと芝居ができる場所があること、できればそこに行くまで2人乗りができるところ、と考えた時に横浜にある金沢動物園がぴったりでした。

ですが、市営の公的な場所なので、朝焼けのシーンを撮る時間は開けられなかったり、一般の方でいる間は撮影できなかったり、いろいろな規定があり、時間をかけてお願いをしました。それでも貸して頂けたのは『耳をすませば』というタイトルのおかげもあったかもしれないですね。朝焼けのシーンはすごく良い画になったと思います。

 

<今の時代にマッチした、ヒーリング映画>

 

高台は金沢動物園で撮影 ©︎柊あおい/集英社 ©︎2022『耳をすませば』製作委員会

 

——ファン目線+プロデューサー目線で「ここは推しです」というポイントは。

 

西さん:まずは、いかにこの『耳をすませば』という傑作の世界観を大事にしているか、ということです。作品を全然知らない人間が、認知度があるからと安易に実写化したわけではないです。オリジナルストーリーが半分入っているので、どうだろうなと思われるかもしれないですが、基本はその根底にある『耳をすませば』の優しい世界観をとても大事にして作っています。

 

それを踏まえて、キャストがいかに合っているかというのも大事に考えたので、そこも見ていただきたいです。

雫ちゃんの仕事の部分は完全オリジナルなので、そこで彼女を取り巻く人たちもそれぞれキャラ立たせたいなと思い、作家役に田中圭さんを起用しました。監督曰く、児童小説を書くほどの彼の純粋さを出すために、服には頓着はあるけれど、世間からずれているという雰囲気を、衣装でも表現しました。

 

また、今の時代にぴったりのヒーリング映画であることも魅力です。2人の懸命な姿を見ていると毎回癒されます。「今は大変だけれど、明日からもうちょっとだけ頑張ってみるかな」と感じさせてくれるのは、今の時代にフィットしていると思います。

 

さっきも言いましたが、こういう可能性もあるんじゃないかという、様々な枝葉の中の1つの形としての作品です。むしろ皆さんの想像するきっかけになって、見終わったら是非ディスカッションしてもらいたいなと思います。

監督・脚本:平川雄一朗

撮影:中山光一

照明:藤井勇

録音:豊田真一

音楽:髙見優

出演:清野菜名、松坂桃李、山田祐貴、内田理央 ほか

原作:柊あおい「耳をすませば」(集英社文庫<コミック版>刊)

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