石原さとみ『風に立つライオン』
絶景の中で、撮影前の 疑問は吹き飛びました――
今、最も輝く女優の一人である石原さとみさん。公開中の映画『風に立つライオン』では、ケニアを舞台に、慈愛に満ちた看護師を演じている。広大な風景の広がるアフリカでの撮影とともに、過去のロケ地の思い出も振り返ってもらった。
不安も抱えて現地入り
ドラマに映画に舞台にと、今、あらゆるジャンルで大活躍の石原さとみさん。2014年も『MONSTERZ モンスターズ』『幕末高校生』など注目の映画に出演、ドラマでは『失恋ショコラティエ』『ディア・シスター』で、それぞれ異なるタイプの女性を、キュートな魅力全開に演じて話題となった。
そして、今年最初の公開作品となるのが、公開中の映画『風に立つライオン』だ。恋人を日本に残し、ケニアの戦傷病院で働く日本人医師・航一郎を描いた本作は、さだまさしさんの同名の曲を題材に、さださん自身が書き下ろした小説が原作。歌を聞いて小説化・映画化を熱望した大沢たかおさんを主演に、さださんのファンだった三池崇史監督が映画化した。この中で石原さんは、確かなスキルで航一郎を支える看護師・和歌子を演じている。「『Ns‘あおい』(06年・フジテ
レビ)で看護師を演じてから、看護師という仕事にすごく興味を持っていたんです。勉強もしたし、看護師の友人も多いので、今回お話をいただいたときは、本当にうれしかったです」こう快活に語る石原さん。花のような笑顔は周囲を一瞬で明るくする。しかし石原さんの女優としての魅力は、笑顔と同居する芯の強さと仕事に向き合う真摯な姿勢にもある。どんなときも、疑問があれば、石原さんは臆せず監督に伝え、解決する。
しかし本作は少し勝手が違ったようだ。「撮影前、私の中で和歌子の心情について理解できないことが少なくなかったんです。でも、監督には『現場に来ればわかる』『航一郎役の大沢さんに会えばわかる』と言われて……。私は、撮影前に勉強したいタイプなんですが、今回は事前にインプットできることが少なくて、少し不安でした」
そんな思いを抱えながら昨年11月中旬にケニア入り。そのときには、主演の大沢さんを含めた先発隊がすでに撮影を進めていた。しかも、現場に入った石原さんは、簡単にスタッフに紹介された後、医療指導担当の先生から説明を受けてすぐに本番。「言われたことを完全に真似て撮影、の繰り返し。とにかく必死でした」と振り返る。
しかし、これはくしくも戦傷病院のスタッフとして後から加わった劇中の和歌子と同じ状況だった。「時間の流れも感情も、和歌子と私の状況が見事にリンクしていたんです。ケニアという土地で感じて触れたものを出すだけで和歌子を演じられていました。現場に入ってからは、和歌子という女性を客観視できないくらい、そのまま和歌子を生きていた気がします」ケニアの風に吹かれて初めてわかることもある。
和歌子の感情を自然と表現できた背景には、初共演となる大沢さんの存在もあった。後から撮影に加わった石原さんのことを気にかけ、大沢さんは「すごく素敵な笑顔で話しかけてくれた」とのこと。それだけではない。少年兵として戦場に駆り出され、体だけでなく心にも大きな傷を負った子どもたちと、彼らに寄り添う航一郎──。演じる現地の子どもたちと大沢さんの間には、作品と同様の親密な空気が流れていた。「大沢さんは、子どもたちと仲良くなるのがものすごく早いんですよ。大沢さんがいるだけで子どもたちが明るくなって、いなくなると子どもたちから笑顔が減る。ストーリーとまったく同じ状況でした」
広い空に低い空、満天の星。
そこでしか感じられないこと
原作者のさださんが、航一郎役に大沢さんを想定してあて書きしていたこともあるのだろう。航一郎を地で行く大沢さんを前に、航一郎に対する和歌子の信頼の情も自然に芽生えていった。当初抱いていた不安や疑問はロケ地に入ってすべて消えた。三池監督の言葉通りだった。
アフリカの壮大な風景も、石原さんにさまざまな想いを抱かせたようだ。「ケニアは標高が高いせいか、空が近く感じるんです。太陽の光は強いし、雲は手を伸ばしたらつかめそう。夜は星が無数に輝きます。東京でこんなに空を意識したことはありませんでした。風も違います。“風に立つライオンでありたい”という航一郎の気持ちも、あの地にいれば、ちゃんと理解できます」
単に景色がきれいとか、風が気持ちいい、という話ではなく、その土地にいるからこそ感じられるものがあった。そう石原さんは真摯なまなざしで説明を加えてくれた。その瞳は、遠い異国の地で、傷ついた多くの子どもたちの母となって力を尽くした和歌子と重なった。
さらにインタビューページの続きでは、本作以外にも過去の作品も振り返りながら語ってくれています。
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石原さとみ『風に立つライオン』
『風に立つライオン』
監督:三池崇史
原作:さだまさし「風に立つライオン」
(幻冬舎刊) 脚本:斉藤ひろし
キャスト:大沢たかお、石原さとみ、萩原聖人、
鈴木亮平、藤谷文子、中村久美、山崎一、
石橋蓮司、真木よう子 ほか
www.kaze-lion.com
(C)2015「風に立つライオン」製作委員会
公開中
◆ストーリー◆
1987年、日本人医師・航一郎は、ケニアの研究施設に派遣される。日本に残した恋人を気にかけながらも充実した日々を送っていたが、派遣要請を受けて赴いた赤十字病院で目にした現実に愕然とする。傷を負った少年の多くが、麻薬を注射され戦場に送られた少年兵だった。看護師として派遣されてきた和歌子と、ときにぶつかりながらも信頼を深めていく航一郎は、深い心の傷を負った少年の心の闇に向き合っていくが……。
1986年、東京都出身。第27回ホリプロタレントスカウトキャラバン「ピュアガール2002」グランプリ受賞をきっかけに芸能界入り。映画『わたしのグランパ』(03)で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。同年、連続テレビ小説『てるてる家族』のヒロインを演じて全国区の人気に。最近の出演作に映画『MONSTERZ モンスターズ』『幕末高校生』(14)、ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(12)、『失恋ショコラティエ』『ディア・シスター』(14)などがある。舞台の評価も高い。